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南雲組3
日の光さえ入らない薄暗さ。
こんな場所に、何の理由もなく入り込む奴なんてなかなかいないだろう。
つまり、何の関係もない一般市民はここを通らない。
「成程。この俺が暴れやすいってわけだな。いい場所を選んでくれたじゃねぇか~なぁ?クソ野郎共」
俺の声に数人の男達が振り向き。冷や汗を流す。
「東田組の暴れ熊……北条秋虎」
「ほぉ~。俺の事を知ってるということは、やっぱり他の組の連中か。半殺しにしちまう前に、どこの組のもんか聞かせてもらおうか?」
全部で六人。体格や風貌的に、まだまだ下っ端の奴等だろう。
三人は腰にナイフを仕込ませているが、どうやら銃を所持している奴はいなさそうだ。
これなら数分で片付くだろう。
「オラッ!!さっさと答えろ!!」
「南雲組ですよ。北条秋虎さん」
「……なっ」
聞き覚えのある声と名前に、一瞬思考が止まる。
「そして俺が南雲組二代目南雲涼夏です!どうも秋虎さん!えっと、俺と会うのはこれで二回目ですね!」
「な、んで……テメェが」
男達の後ろに隠れていて気が付かなかった。
短い茶色の髪に、小麦色の肌。極道とは明らかにかけ離れた外見のソイツは、確かにあの時若と一緒に居た南雲涼夏だった。
「テメェ……何が目的だ。何の為に若に近づきやがった」
「あ、勘違いしないでくださいね!俺、春華の事は大好きなんです!!」
少し頬染めながら笑いかけるその目に、嘘はついてないように見えた。
「春華は少し我が儘で傲慢なところもあるけど、純粋で優しくて、それでいて強い心を持っている。俺はそんな春華が大好きで大好きで……」
胸に手を当てて若の事を語る南雲の表情は、まるで俺や組長が若を可愛がっている時のように満たされた顔をしている。それだけ若の事を気に入っているのだろう。
「じゃあなんで、東田組を狙う」
俺の問いに、南雲涼夏は一瞬口を閉じると。ゆっくりと口角を上げながら答えた。
「東田組を狙う理由?ちょっと違いますよ秋虎さん。俺は、東田組を潰したいわけじゃないんです。ただ……アンタだけを潰せればそれでいいんですよ」
空気が一気に変わった。
「春華と何の話をしても「秋虎が」俺の話をしてても「秋虎なら」自分の話をしてても「秋虎は」秋虎秋虎秋虎秋虎!!……もう俺、吐き気がしてきそうですよ」
口元だけは変わらずずっとニコニコしているのに、俺を凝視する目は全く笑っていない。
あんなにキラキラで爽やかだった青年はどこに行ってしまったのかと思うほど、南雲涼夏は殺意で満ちた顔をしていた。
「はっ!だから俺を始末すると?いい度胸だなクソ餓鬼」
南雲涼夏が南雲組二代目でも、俺を殺すつもりだったとしても、俺が負ける気は全くしねぇ。
コイツがカタギじゃねぇってんなら、もう二度と若に近づけないようにしてやる。
「う~ん。まぁ確かに、秋虎さんを始末する為に春華に近づいて、東田組の何人かをボコボコニして、そしてようやくこんな汚い場所までおびき寄せたんですけど……理由がちょっと足りません」
「理由が足りねぇだぁ?テメェは若に惚れてて、そんでもって若の側にいる俺が邪魔だから始末してぇわけじゃねぇのかよ」
「さっき言ったじゃないですか。秋虎さん『アンタを始末するために春華に近づいた』って。春華の事が好きになるより先に、俺はアンタを始末する目的があったんですよ」
そうか。コイツは最初、俺と接触するためだけに若に近づいたはずだったが。いつしか予想外にも若に惚れてしまった。
そして、側にいる俺が疎ましくなり。俺を始末する理由が一つ増えた。
なら、一番の理由はなんだ?
俺はコイツに、何か恨まれるようなことをしたか?
「悪いが、俺はテメェに恨まれるような事をした覚えがねぇが?」
「あはは!やっぱ分かりませんよね!実際俺と会ったことはないでしょうし。しょうがないですね……秋虎さん、俺の旧姓教えてあげますよ」
「は?なんだ急に」
「柊涼夏 。それが俺の旧姓です」
「ひいらぎ……」
柊という苗字に、俺は震撼した。
聞き覚えどころじゃない。忘れたくても忘れられない最悪で悲嘆な思い出の中に、その苗字は存在した。
俺の、大事な親友だった男の苗字。
「お前は……アイツの」
「はい、息子です」
まるで頭を思いっきり殴られたみたいな、そんな感覚が俺を襲う。
「そんな……なん、で」
ガンガン。ガンガン。
この罪から逃げられると思うな。と、誰かから訴えられているかのように。
「もうお分かりですよね?俺が秋虎さんを始末する理由が」
いつのまにか俺の背後に立っていた男達が、俺の腕や首を掴んで抑え込む。
早くコイツ等を振り払って逃げなければ、俺はやられる。分かっているのに、身体が言う事を聞かない。
「クソッ!!離せっ!!」
「秋虎さん、楽に死ねると思わないでくださいね。俺の父さんを殺した罪……しっかり償ってもらいますから」
その瞬間。
バコッと鈍い音と共に、俺はゆっくりと意識を失った。
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