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お世話係で、恋人で

あれから一週間が経ったが。南雲組が俺達を狙う事は無くなった。 仕返しの一つでもしにくるかと思っていたが。どうやらあの日。組長が、南雲明雷に何かしたらしい。 あの騒動があって、いろいろと片付いた後。組長はわざわざ自分の愛車にアイツを乗せて、何処かへ消えてしまった。 帰ってきたのは次の日の朝。何処に行っていたのかは、何度問いただしても教えてはくれなかった。 一つだけ分かることと言えば、その時の組長はどこかスッキリした顔をしていたということだけ……。 正直これ以上探れば、何か激しく後悔しそうな気がしたので、俺はあの二人については気にしないことにした。 涼夏はあの後、本当に組長と盃を交わし。晴れて東田組の一員となった。 しかし。未だ俺の命を狙っている事には変わりないらしく。涼夏の監視役として、西國が側に着くこととなったらしい。 おかげで車の運転も買い物も、自分でするしかなくなった。 パシリがいないというのは、こんなにも不便な事だったのかと。アイツが隣に居なくなって、初めてその有難さを思い知った。 それに……西國がいないと、肝心の相談も出来やしない。 「はぁ~……どうしたらいいんだ……俺は」 あれから若は、俺に「好き」だと言ってこなくなった。 それどころか、今まで俺に刺々しかった態度もなくなってしまった。 よくよく考えると、今までの俺に対する冷たい態度は、自分の気持ちに全然気づかない俺への苛立ちからだったのだろう。 溺愛していたといっても、その頃の俺は若を息子のように溺愛していただけで、若みたいな恋愛とは違っていた。そりゃ、好きな奴から息子扱いされてムカつくのは当然だろう。 「あぁ~~!!思い返すだけで、自分に腹が立ってきやがる!!」 若が今までどれだけ辛い思いをしていたかも知らなかった俺は、ずっと気持ちに気付かないまま、失礼な事ばかりしてきてしまった。 今すぐにでも、昔の自分を殴り飛ばしたい思いだ。 「若は、許してくれるだろうか……。こんな俺を、まだ好きでいてくれているだろうか……」 『私の息子は、貴方のせいで死んだりしませんよ』あの日組長は、俺にそう言ってくれた。 確かに、俺を助けに来てくれた若の背中はとても頼もしかった。 俺が守るだけじゃない。若も俺を守ってくれた。 それはきっと、俺が大切だから。俺が特別だから。 『そのよく分からない気持ちを俺に言うんじゃなくて、若本人に言ってください。じゃないと後悔しますよ』 「後悔する前に……」 西國に言われたあの時の言葉が、俺の背中を押す。 「ふ~~……。よし」 俺は、今日も下駄箱に現れない若を迎えに行くために校舎裏へと入り込み。あの大きな木の下へ足を踏み入れた。 「若!!」 「あれ?いつのまに来てたの?秋虎」 さっきまでこの木の下で若に告白をしていた奴がいたのだろう。若の顔がとてもめんどくさそうで、でも少しだけ罰が悪そうに眉をしかめていた。 俺に告白した手前。別の人に告白されていたという事に、罪悪感でも感じているのだろうか?そんな事、若が気にしなくてもいいはずなのに……やっぱり若は、優しい人だ。 「お迎えに上がりました。若」 「はぁ~……過保護なところは、この先もずっと変わりそうにないね。秋虎は」 「そうですね。俺は未だに若が可愛くて仕方ありませんので」 「……そう」 「だからこれからも、若のお世話係を辞めるつもりはありません。若に危害を加える奴等は全員なぎ倒し。この身にかえても必ずお守りします」 「そう……まぁ、そうだよね」 どんどん沈んでいく若の悲しそうな顔に、俺は軽く息を整え。拳を握りしめた。 俺はもう、覚悟を決めたんだ。 「なので……若」 風が吹き。ざわざわと大きな木は枝を揺らし。葉を揺らす。 それはまるで、俺の気持ちを表すかのように。 「変わりに俺の事、守ってくれますか」 震える手で若の手を取り。自分の心臓へ押し当てる。 俺の覚悟を、俺の気持ちを、伝えるために。 「俺の命は、若に預けたいです」 「……あき、とら……」 「好きです若。俺と一緒に生きてください」 似合わない台詞を、精一杯に伝えた。 俺らしくもない。きっと一生言うつもりなんてなかった告白。 その想いに、若は今までにない天使のような笑顔で答えてくれた。 「当たり前だよ。馬鹿秋虎」 この木の下で告白をすると、その恋は必ず芽生える。 案外餓鬼の噂は馬鹿にできねぇなと、俺は初めてそう思った。

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