26 / 256
第一章・26
「ただいま」
ぷぅ、と拓斗は酒を吹き出した。
「秋也!?」
玲は飛んできた飛沫を指先でぬぐいながら驚いた声をあげた。
早い。
早すぎる。
植村とうまくいかなかったのだろうか。
「お前、何だってこんなに早いんだよ。お持ち帰りに失敗したのか!?」
上着を脱ぎながら、秋也はぼそぼそと何か言っている。
「お持ち帰りは……断った」
「断った!?」
植村は、確かに拓斗が言っていたように夕食後の甘いひと時もOKのつもりだったらしい。
露骨に迫り、誘ってきたという。
「そいつを断ったってか。お前、バカじゃねえの!?」
「女の子に恥をかかせるなんて、最低だよ!」
拓斗と玲は口々に秋也をなじった。
だが秋也は黙って玲の隣に腰を下ろすとグラスに酒を注ぎ、ぐいと飲み干した。
ともだちにシェアしよう!