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第一章・26

「ただいま」  ぷぅ、と拓斗は酒を吹き出した。 「秋也!?」  玲は飛んできた飛沫を指先でぬぐいながら驚いた声をあげた。  早い。  早すぎる。  植村とうまくいかなかったのだろうか。 「お前、何だってこんなに早いんだよ。お持ち帰りに失敗したのか!?」  上着を脱ぎながら、秋也はぼそぼそと何か言っている。 「お持ち帰りは……断った」 「断った!?」  植村は、確かに拓斗が言っていたように夕食後の甘いひと時もOKのつもりだったらしい。  露骨に迫り、誘ってきたという。 「そいつを断ったってか。お前、バカじゃねえの!?」 「女の子に恥をかかせるなんて、最低だよ!」  拓斗と玲は口々に秋也をなじった。  だが秋也は黙って玲の隣に腰を下ろすとグラスに酒を注ぎ、ぐいと飲み干した。

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