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第二章・6

「飲み物、用意しようか。何がいい?」 「悪いな。ワインでいい。そこにある、白」  グラスにワインを注ぐ手がかすかに震える。  再び牡蠣の殻に挑み始めた秋也の眼を盗んで、玲は手にした媚薬を彼のグラスに溶かし込んだ。 「潮の味が強いな。喉が渇く」  玲が用意した媚薬入りのグラスを、秋也は何の疑いもなくひょいと受け取った。 「あっ!」  玲は、思わず手をさし伸ばしていた。  今ならまだ間に合う。 「何だ?」 「え、あ、何でもない……」  いまさら、それには薬を入れてしまったので飲んではだめだ、とは言えない。  一瞬怪訝な顔をした秋也だったが、すぐに飲み干してしまった。

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