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第三章・4

 でも、秋也は。  誠実な秋也ならば、僕を裏切ったりはしないだろうと涙を拭いた。  彼の部屋へと足を運ぶと、秋也はのんびり新聞を広げてくつろいでいた。  単刀直入に、今日は僕の誕生日なんですけど、と言うことはさすがにはばかられたので、玲は秋也の隣に腰掛けて、当たり障りのない話題を投げかけた。 「秋に植えた新しいバラが、つぼみをつけたよ」 「そうか」 「覚えてる? 花市で、一緒に選んだ苗木」 「ああ」 「赤い花を咲かせるらしいけど、どんな赤かな。オレンジに近い赤だと嬉しいな」 「そうだな」  何を言っても新聞から眼を離さずに生返事を返してくる秋也。  玲はどんどん心細くなってきた。  まさか秋也も。  まさか秋也までも、誰か別に好きな人ができて、僕との会話などもうどうでもよくなってしまったのでは!?

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