68 / 256
第三章・6
当てもなく歩き回ってみたが、誰かが声をかけてくれるでもなくただいたずらに疲れてしまった。
映画だと、こういう時には見計らったように、一緒にお茶でもいかがですか、と誘われるものなのだが。
玲は、美しすぎる自分の容姿のことをさっぱり考えていなかった。
どう見ても高嶺の花だと、ナンパをしてくる人間はいないものなのだ。
もう日も暮れてしまい、玲は噴水のある広場へ入った。
噴水のへりに腰掛け、うなだれる。
あぁ、誰も僕のことなど見向きもしてくれない。
年に一度の誕生日なのに、ひとり孤独に過ごすのだ。
一度は絞った涙腺が、再び緩み始める。
その時、人影が眼に入ってきた。
「ひとり?」
低く、豊かに響く声。
顔を上げると、背の高いイケメンがにこにこと笑っていた。
服装は若いが、落ち着いた雰囲気。
玲より年上かと思われた。
ともだちにシェアしよう!