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第三章・7
「うん……」
小さくうなずく玲の横に座ると、イケメン氏はなれなれしく腰に手を回してきた。
「名前は?」
「……レイ」
いい名前だね、と男は笑った。
綺麗な君にはぴったりの名前だ、と髪をなでた。
「じゃあ、僕はゼロとでも名乗るかな」
数字の零の読み方を、音と訓に分けた小粋な洒落だ。
巧妙な軽口をたたいた後、男はささやいた。
「今夜、一緒にどう?」
普段の玲なら、絶対にお断りのはずだった。
初対面で、このなれなれしさ。ずうずうしさ。
我慢ならない類の男だった。
だがしかし。
「いいよ」
潤んだ眼をして、男を見つめた。
さびしかった。
誕生日に、愛する二人からフラれるという打撃。
誰でもいいから、そばにいて欲しかったのだ。
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