81 / 256

第三章・19

「でも、秋也は誰か好きな人がいるって言った」 「あれは、その。つまり、好きな人というのは、何だ」  お前のことだ、といって赤い顔を背ける秋也。  拓斗も、昨日会った女は馴染みの店のマダムで、もう70歳のおばあちゃんだと打ち明けた。  ますますばつの悪くなってしまった玲。  二人には、何も悪いところなどなかったのだ。  それなのに、僕は見ず知らずの男に許してしまった。  別の種類の涙があふれてくる。 「。・゚・(ノД`)・゚・。ウエエェェン」 「だーかーらー、泣くな。何があった? ん?」 「怒らない?」 「怒らないから、言ってみ?」  ぼそぼそと、玲は怪しい男・ゼロに買われたことを打ち明けた。  二人とも、きっと怒るだろう。  誕生日なんて、もう祝ってくれないに違いない。  秋也が、黙って玲の隣に腰掛けた。  ぶたれるかもしれない、と玲はどきどきしながら身をすくめた。  だが、秋也はその長い腕を回して玲の細い体を抱きしめてきたのだ。 「忘れろ。事故にあったようなものだ」

ともだちにシェアしよう!