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第四章・9

 何かあったのか、と秋也は玲の肩を抱いた。  腕の中の玲は、くたんとして弱弱しい。  そして、僕は独りで年をとるんだ、とつぶやいた。 「若くてきれいな時は、みんなちやほやしてくれる。でもね、年をとると、きっと誰も見なくなる」  そして、この忘れな草とは違って、好きな人の種を残すこともできないのだ、とうつむいた。 「俺はたとえお前が老いても、今と変わらないから安心しろ」 「本当?」 「ああ、ずっと一緒にいよう」 「秋也はやっぱり優しいね」  肩の腕を腰にまわし、秋也はそっと玲に口づけた。  遠くから、小鳥の鳴き声が聞こえてくる。  草がそよぐ。  木立がざわめく。  ざわめく木立の陰には、ざわめく心の拓斗がいた。  秋也はやっぱり優しいね、だとぅ!?   そうだねそうだねそうですね! 秋也君は優しいですね!   俺とは違いますからね!  拓斗の不機嫌は頂点に達し、後はもう飲むしかないと足音も荒く年休を取ってマンションへと去った。

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