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第五章・4

 医療所の女医、福田。  今回の事の顛末を知っている彼女は、玲からも同じような悩みを受けていた。  二人のことはもう許しているし、怒っているわけでもない。  だけど、どうしても避けてしまう。逃げてしまう。  もとのように仲良く一緒に過ごしたいのに、心が、体が拒否してしまう。  しかたのないことだね、と福田は思っていた。  一番信頼していたはずの拓斗と秋也に暴行を受けたのだ。  その恐怖は、心の奥底にしっかりと根付いてしまっている。  表面では許し、水に流しても、潜在意識の恐怖と不信はぬぐえない。 『だけど、あの子の幸せはあたしの願いでもあるからさ』  そう言って福田は、拓斗に茶色の小瓶を託したのだ。 「とにかく秋也、お前は17日に三人で会うセッティングをしろ」 「17日?」 「翌日18日が三人そろって非番なんだよ。じっくり玲の治療ができるチャンスだ」 「うまくいくだろうか」  やらなきゃなんねえし、うまく運ばなきゃなんねえんだよ、と拓斗は真顔で秋也に訴えた。 「失敗は許されねえ。いいな?」 「うん」  なんにせよ、玲の傷ついた心をそのままにしておくわけにはいかない。  秋也は、なだめてすかしてようやく17日に玲の部屋で夕食の卓を囲む了解をもぎとった。

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