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第六章・2
「ギャンブル? 感心しないな」
「堅苦しく考えるなよ。小遣い稼ぎするくらいだ」
「あと3日で給料が入る。それまで我慢できないのか」
「そういう秋也だって、欲しい新刊がたくさん溜まってるんじゃね?」
む、と秋也は口元に手をやった。
確かに読みたい本が山ほどある。
特に、好きな翻訳家が訳したロシア文学の全集がついに発表されたのだ。
あれを読みたい。今すぐに。
結局秋也も財布を手に、拓斗と共に上へと登った。
二人の目指す先では、玲がこれまた悩ましげにお菓子の空き缶を開けたり閉めたりしていた。
今、開催されているバラの博覧会。
喉から手が出るほど欲しい、新しい品種のバラがあるのだ。
世界各地のコンクールで金賞や芳香賞を貰っている、心を浮き立たせるような花と夢のような芳香を持った、ハイブリッドティーローズ。
「欲しい……」
でも、こつこつ貯めていたお菓子の缶に入っている金額では足りない。
博覧会は明日で終了。
3日後の給料日を待っていては、手に入らない。
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