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第六章・25

 玲は、空っぽになってしまったお菓子の缶を前に、溜息をついた。  これであの素敵なバラは、手の届かない遥か彼方に行ってしまった。  こんなチャンスは滅多になかったのに。 「もっともっとポーカーに強くならなきゃ!」  いやその前に、ギャンブルに手を出す、などという考えを起こさねばよいのだが。  起きると、拓斗も秋也もいなくなっていた。  拓斗は、デートの準備に忙しいのだろう。  秋也は、書店に行ってロシア文学全集を買ったに違いない。  まだ濡れている洗い髪を、手櫛で梳いた。  僕が起きて、シャワーを使うくらいまで待っててくれてもいいのに、と頬を膨らませた。 「おいおい、美形が台無しだぜ」 「膨れっ面はやめろ」  拓斗と秋也。  にやけた顔で、再びここへやってくるとは。  玲は、ぷいとそっぽを向いた。 「悪いけど、もう賭けるものなんてないから!」

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