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第七章・4
秋也は語る代わりに、一通の封書を拓斗に手渡した。
品の良い封筒に入っているのは、これまた美しい招待状。
開く拓斗に、玲も頭を寄せた。
『パストリーシェフ・三谷郁夫によるスウィーツ・フルコースへのご案内』
「お前たち、以前俺の下にいた三谷を覚えてるか?」
あぁ、とさして労せず、拓斗と玲は三谷の顔を思い出した。
熱心で勤勉な新入社員だったが、お家の事情で退職を余儀なくされた不運な青年だ。
確かその後は、故郷へ帰ったはずだ。
とても秋也に懐いていた青年だった。
「その三谷が、菓子職人として店を構えたらしいんだ」
「パティシエ、って言えよ」
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