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第6話
自室でタブレットを操作しヘッドフォンを外すと、睦月はうん、と伸びをした。
陽に誕生日プレゼントに買ってもらってからは、自宅で学べるという学習塾のカリキュラムを受講していた。
勉強は嫌いではない。何かに没頭するのは好きで、つい暗くなりがちな自分が余計なことを考えずに問題に向かえる時間は楽しい。目標は特にないし、高卒で働ける場所さえあれば文句はないが、勉強をしておいて損はないだろうという考えで、毎日机に向かっている。
高校の授業料は無償とはいえ、塾になど通ったらそれこそ金銭面で負担を強いることになってしまう。勉強は好きだが、陽に迷惑をかけたくはない。
ただ、なんか……最近おかしい。
陽のスキンシップの多さは一緒に暮らし始めた五年前から変わってはいない。それこそ頬にキスするなんて、昔からなのに。
高校生に上がり、さすがに以前ほどの触れあいはなくなった。それでも、手を握ったりキスの代わりに頬を撫でたり、髪に触れられるのもいつものこと。
陽は変わっていない。
おかしくなってしまったのは、自分だ。
友人の一人だとわかっているのに、田ノ上と仲睦まじく話しているところを見ると落ち着かなくなる。
陽に触れられると、心臓がドクドクと速い音を立てる。近くに立っているだけなのに、昔みたいに陽の胸の中に抱き締められたいなんて思ってしまう。
違う、違うと思っていても、それは一つの答えしかあり得ないような気がしていた。
自分の考えを振り払うようにタブレットを操作し、ネットを立ち上げ「恋愛感情」と入力する。自分でも馬鹿みたいだと思う。そんなもの調べて何になる。
タブレットの画面に出てきた文字に、ツッと汗が額を流れ落ちた。
(恋愛感情は……相手に性的魅力を感じる、肉体的にも精神的にも触れあいたいと望むもの……ってそんなの)
陽に抱き締められれば嬉しいし、逞しい腕の中にいて落ち着かない気持ちになる。抱き締められる以上のことを、睦月は望んでいるのか。
思わず、脳裏に裸で抱き合う映像が映し出され、慌てて打ち消す。違う、こんなの間違っていると、何度も首を横に振っては思い描いた映像を否定した。
「……っ」
(や、だっ……なんで……)
背筋をピリッと電気のような快感が駆け抜ける。頭まで一直線上に走ったそれは、ズンと睦月の腰を重くした。
机に向かって頭に入ってこない数式を並べながら必死に抗うものの、擦り合わせた足の間の昂りは収まるどころか痛いほどに張り詰めていた。
(最近、シテなかった……からっ)
見た目には純真無垢という言葉がピッタリだが、睦月とて健全な男子高校生だ。時には自分で慰めることもあるし、いやらしいことが頭を過ぎることだってある。
(でも……なんで……なんで陽さん、なのっ)
陽に抱き締められながら、屹立した性器を擦られる──そんな想像だけで、クチュッと先端から先走りが溢れた。
「あ……っ、ふ」
睦月は椅子に座ったまま、パジャマのズボンの中に手を入れ、勃ち上がった陰茎を緩く扱く。脳裏に浮かんだ陽の顔は目眩を感じるほどの美しさで、睦月を魅了した。
「陽、さっ……」
下着にそれとわかる染みが広がっていく。淫らで恥ずかしいのに、下着の中に入れた手と上から睾丸を刺激する手が、いつもの自慰よりも遥かに淫猥で、男らしいあの手を想像してしまえば、途中でやめられるはずがなかった。
グチッグチッと室内には卑猥な水音が響く。先走りで睦月の手はベットリと濡れていた。そんなことがどうでもよくなるぐらい気持ちがいい。
声が響けば、隣の陽の部屋に聞こえてしまうかもしれない。睦月は声が響かないよう立ち上がり机にうつ伏せになった。尻を突き出すように腰を振る。
「はぁっ……ん、くっ……き、もちいっ。ヌルヌル、して……すご……んっ」
手の中で膨れ上がった陰茎がビクビクと脈動する。
頭の中で繰り広げられる卑猥な想像だけで、もうすぐに堕ちていきそうだった。
「んっ……あ、イ、ク……っ、陽、さ……んっ」
さすがに理性が働き、手のひらで精液を受け止めることは出来たが、後に残ったのは罪悪感ばかりだ。
「あっ……はっ、はぁっ……」
家族だと、言ってくれたのに──。
睦月は吐精で汚れた手を見つめながら、陽までをも汚してしまったような気がして、居た堪れなさに心が抉られる。
この恋心が実り育つ前に、陽と離れなければ。
こんなの、陽への裏切りでしかない。
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