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Ju te Veux:04-2:シャンパン

「ごめん、もう済ませてきたよ。湯島君は?」 「僕も済ませてしまいました。でも、一応シャンパンを用意しています」 「シャンパン?」  湯島はキッチンに入ると、すぐによく冷えたシャンパンを手にして戻ってきた。 「開発に杉本君っているでしょう?」 「ああ、インクの開発の?」 「ええ。彼福岡の出身なんですけどね、九州の方では、ホワイトデーにはシャンパンをプレゼントするらしいですよ?なかなか素敵な習慣ですよね」  話ながら湯島は、ダイニングテーブルの上にシャンパンのボトルを置き、フルートグラスを2つ並べる。それからボトルの水滴を拭いて、ちゃんとしたソムリエナイフを取り出し、シャンパンの封を切った。 「へぇ、俺みたいな酒飲みにはありがたい習慣……って、バレンタインには君がストラップをくれたんだから、今日は一応俺がお返しを持ってきたんだけど」 「え?」  瀬川の返事は意外な物だったのか、湯島は不思議そうな顔をした。どうやら湯島にとっては、あのストラップはバレンタインのプレゼントではなかったらしい。 「バレンタインにプレゼントをもらったのは僕ですよ?」  そう言って、湯島はシャンパンの栓を抜き、フルートグラスに静かに注いだ。 「俺、あの日は何もあげてないぞ?」  今度は瀬川も意外そうな顔をすると、湯島はにっこりと魅惑的に微笑んだ。 「いいえ、瀬川さん。あなたが僕の気持ちに応えてくれた。これ以上のプレゼントはありませんよ」  そうはっきりと言い切る湯島を、瀬川はマジマジと見つめてしまった。 「キザだな……」 「あはははは。すいません、少々浮かれているんですよ。さ、飲みませんか?」 「うん。ありがとう。あ、でも一応これ」  瀬川は鞄の中からラッピングされた包みを出した。湯島はすぐに「ありがとうございます」と受け取って包装紙を開く。中から出てきたのはアーモンドをホワイトチョコレートで包んだドラジェと、チョコレートのかかったオレンジピールだ。 「湯島君、前にオレンジピール好きって言ってたろ?それ、ブラックチョコレートだから、そんなに甘くないと思うんだ」 「ああ、シャンパンにも合いそうですね」  ありがとうございますと、湯島はスマートに瀬川の唇にキスをした。なんというか……湯島はこういうところが馴れているというか、恥ずかしいというか……瀬川だってそれなりに恋愛経験はある方だと思うのだが、自分がこんなふうに大切に扱われることに、どうにも馴れない。  その後2人はソファに移って、オレンジピールや、他に湯島が用意してくれたチーズやクラッカーでシャンパンを楽しんだ。

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