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Ju te Veux:05-1:魂を分け合って
◇◇◇ ◇◇◇
シャワーだけを手早く済ませて浴室から出ると、先ほど脱いで畳んでおいた自分のスーツがなくなっていた。几帳面な湯島のことだから、吊してくれたのかもしれない。変わりに先程脱いだスーツを置いておいた洗濯機の上には、紺色のバスローブが置いてあった。
「うわ……バスローブなんて家で着てる奴、俺初めて見るぞ……」
まさか自分がこれを個人宅で着ることになるとは思わなかったが、それでも他に身につける物がないので、ありがたく着させてもらうことにした。それから下着をどうしようかと、少しだけ思案する。
新しいシャツと一緒に、下着も一応持ってきているのだが、どうせすぐ脱ぐのだし……そう考えて、ちょっとだけ赤くなる。
いや、うん。すぐ脱ぐ……よな?うん。間違ってない。間違っちゃないけど……やっぱりちょっと恥ずかしいな……。
その事はあんまり考えないことにして、瀬川は洗面所を後にした。
廊下に出たら、リビングからピアノの音が聞こえてきた。先程2人で弾いた“ルパン三世のテーマ”だ。かなり強めにアレンジされ、スウィング感が心地良い。
「うわ…、かっこいい……」
“ルパン三世のテーマ”は、アニメの新作が出るたびに毎回アレンジを替えて収録されている。BGMでの編曲も入れると、公式だけでも膨大な数のアレンジが存在するし、多くのアーティストからも多数カバーされてきた。その全てを聞いたことがあるわけではないが、瀬川の耳には、湯島のピアノはその中に混じっても全く遜色はないように聞こえた。
やっぱり彼のピアノは、自分にぴったり来るのだ。
「くっそ、こんな時にこのピアノかよ……格好良すぎるだろ……!」
瀬川はピアノの邪魔をしないように、リビングの入り口に立ち止まってしばらく彼のピアノを聞いていた。
だが、せっかくのその曲は、途中でふつりと途切れてしまった。
「あ……え、なんで?」
もったいないと言うより早く、湯島がジロリと睨んでくる。睨みたいのはこっちだと一瞬思ったが、今日これから何をするのか考えれば、あまりケンカじみたことはしたくない。
「上がったのなら、声をかけて下さい」
「だって、せっかく弾いてたから……。最後まで聞きたいなって思って」
「そんな余裕はありません。今だって風呂場を覗きたくて堪らない自分を、なんとか誤魔化すためにピアノを弾いてただけなんですから」
珍しく語気の荒い湯島に驚いて、目を見開いてしまった。その瀬川の顔を見て、湯島はさらにむくれたような顔をする。
「……すいません。シャワー浴びてきます。すぐ終わりますので」
足早にリビングを出て行く湯島を見送って、瀬川は少しだけ呆気にとられてしまった。
だって、あんな湯島は見たことがないから。
いつだって余裕めいた笑みを浮かべて、上品で丁寧な手つきをする男だ。その湯島が……。
「耳まで赤かったぞ、湯島君……」
瀬川は湯島が消えていった廊下を、そっと目で追った。
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