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Ju te Veux:05-2:魂を分け合って
余裕がない、と言っていたのは本当なのだろう。そうして、彼の余裕を奪っているのは、他ならぬ自分なのだ。
「……嘘だろう……?」
リビングの窓ガラスに、自分の姿が映っている。
バスローブの丈は少し短くて、膝が見えてしまっているのが恥ずかしい。
「まさか、この格好で……?」
まじまじと自分の姿を見つめる。確かに人より多少背は小さいが、これといってどこがどうということはない、普通の男だ。まさか、こんなアラサー男を見て、湯島のような男が余裕をなくすなんてことは……。
そう思って、でも、と思い直す。
湯島君は、ずっと俺のことを好きだったって言ってくれたし……ひょっとしたら、本当に俺のせいであんな風に赤くなったりしちゃうのだろうか……。
「……どうしよう……」
そう思うと、ガラスに映った自分の顔が、だらしなく緩んでくる。
「やばい……嬉しい……かも……」
自分という存在が、湯島にそんな風に影響を与えるなんて、信じられない。
赤くなってにやけてしまう頬を何とか鎮めようと格闘してると、いきなりばたんとドアが開いた。
相変わらず赤い顔の湯島が、少し怒っているように自分を見つめている。
え?もうシャワー終わったのか?早すぎないか?と湯島を見れば、髪からはまだパタパタとお湯を滴らせ、セピア色のバスローブから覗く胸にも水滴が見えていた。
うわ、本当に速攻でシャワー浴びたんだ……。
っていうか湯島君……
「そのバスローブ、俺のより長くない?湯島君、膝見えてないじゃん。俺のことどんだけ小さいと思ってこれ用意したんだよ」
「瀬川さんが小さいと思って用意したんじゃありません。瀬川さんの脚が見たくて、短めの物を敢えて用意したんです」
「え……」
そ、それはちょっと恥ずかしいというかなんというか……
「湯島君、少し、変態……?」
「好きな人のナマ足が見たいと思うのが変態なら、男は皆変態です」
「いや……だって、俺だぞ……?」
「あぁもう……!」
湯島は足早に瀬川に近づいてくると、いきなり瀬川の脇の下と膝裏に手を挿し込み、瀬川の体を軽々と横抱きにした。……いわゆる、お姫様抱っこ、という奴である。
「うわ!?ちょ、湯島君!?いくら俺が君より小さいからって!」
「背は関係ありません!初夜なんですよ!?この位させてくれても良いでしょう!?」
「しょ…、初夜?……いや、えっと……ごめん、俺、そういう乙女回路が装備されてなくって……」
だから怒らないでくれよと下から見上げると、湯島の頬はますます赤くなった。いや、もう首やら胸元まで真っ赤だ。
「……怒ってる訳じゃありません」
「そうなのか?」
「本当に僕、今余裕ないんです。クソ、もっとスマートにあなたをエスコートするつもりだったのに……!」
湯島君でも「クソ」なんて言うんだ……とは、口に出さずにしまっておくことにした。湯島がからかわれていると思っても良くないし、もちろん彼の純情を踏みにじるつもりもない。それに湯島と付き合うようになって、湯島が多少の乙女回路を装備してることは理解したつもりだったのだから、ここは大人しく彼の思い描いている「初夜」とやらに添えるように頑張った方が良いのだろう。
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