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第3話

(なんか、黒猫みてーだな) 長めの黒髪と漆黒の瞳は少し釣り上がった猫目が黒猫を想像させた。 旭陽はそっちの気は無いがそれでも、そそられる色っぽい少年だと思った。 「君、名前なんだっけ?」 「……シオンだよ」 少し首を傾けて、知らないの?そんな顔を浮かべている。 「シオンね……」 そう呟くと、シオンの唇が旭陽の唇を塞いだ。 (うーん……悪くないな……さすが、慣れてる) 思わず旭陽はシオンの舌使いに翻弄される。 クチュクチュとわざとなのか、シオンは水音を立て舌を絡め、煽るように腰を旭陽に押し付けてきている。 「さすがにキス上手いね、シオンくん」 クチュっと音を出し、一旦キスを止めた。 「あんたもなかなかだよ」 そう言って、またキスをされた。 旭陽はシオンの細い腰に手を回した。 「はぁ……」 お互いの舌先からいやらしく銀色の糸が引いた。 シオンの顔は蒸気し、虚ろな目を旭陽に向けている。 (エロい顔、可愛い……) 絆されている自分がいて、ふとこの少年を殺せるのか頭によぎった。 「一回口でする?それともベッド行く?」 「ベッドいこうか?」 2人はベッドになだれ込むと、シオンは最後の一枚であるボクサーパンツを自ら脱いだ。 全裸の下半身には当然自分と同じものが付いており、胸も当然谷間などなく真っ平だ。男の子にしては小柄でまだ幼さが残る華奢な体つきと、日焼けを知らない真っ白な肌は、触らなくとも手触りが良い張りのありそうな肌だ。今まで見た女の肌など目劣りしてしまう。男であると分かっていても妙にそそるものを感じ、不思議と嫌悪感はなく、寧ろ綺麗だとも思えた。 マニアには堪らないだろう。そういう性癖の輩には、さぞかし人気だろうと旭陽は思った。 シオンを組み敷き見下ろすと、シオンは少し恥ずかしそうに顔を背けている。 (()りたくねーなぁ……こんな子供やったら、余計夢見ちゃうよ) 殺し屋として生きてきて、こんなにも人を殺す事に躊躇したのは初めてだった。だが、そういう訳にもいかない。ジャケットの下のホルダーに手をかけると拳銃を取り出した。 「ごめんな……」 そう言ってそれをシオンの額に押し付けた。 シオンは一瞬目を丸くし、旭陽を見た。 「それ、おもちゃ?」 抑揚のない声でシオンは聞いた。 「ホンモノって言ったら?」 彼は表情を一つも変える事はなかった。怯える様子もましてや命乞いする事もなく、 「僕を殺してくれるの?」 そう言った。 「殺してほしいのか?」 「殺してほしいとは思わないけど、別に死んでもいいかな」 シオンは旭陽の拳銃を握る手に触れるとゆっくりと目を閉じた。 その時、死んだ妹と重なった。 旭陽はそのままシオンに合わせるだけのキスを落とし、拳銃をホルダーにしまった。 「殺さないの?」 シオンから体を離し、ベッドに大の字になった旭陽にシオンは聞く。 「やめた」 一言そう告げるとシオンを見た。 黒い瞳を丸くしている。 「こんな子供、俺には殺せない」 旭陽はシオンの頬を撫でると、ぎゅっと抱きしめた。 「あんた、殺し屋?」 「ああ、でもそれも今日で終いだ」 「いいの?」 「良くはねーけどな」 自分の腕を枕にし、目を閉じる。浮かぶのは、夢に出てくる血塗れの死体たち。堪らず目を開けると、目の前には黒い瞳の美しい少年。 「お前が死んだ妹とかぶった」 そう言って、またシオンの頬を撫でた。 「死んだの?妹」 「ああ、7歳だった。俺と妹は育児放棄されて、ろくな食べ物も与えられず、妹は衰弱死してった」 シオンの手が伸びてきて、今度は旭陽が頬を撫でられた。 旭陽は左腕にシオンを抱えたまま、仰向けになった。 「心のどこかでずっと思ってた。こんな事もうやめたいってな。毎日悪夢を見る。自分が殺したはずの人間に襲われる夢。いい加減、ゆっくり眠りたい」 大きく一つ息を吐くと、シオンを見た。憐れむような表情もなく、相変わらず顔の変化は見られなかった。 「お前は?体売って生活してたのか?」 シオンはコクリと頷き、 「僕は……親が事故で死んじゃって、親戚中にたらい回し。それが嫌で家出した。子供の自分にはこの体を売る事しかなかったから……」 シオンは目を伏せるとまつ毛の影が頬に写り、まつ毛の長さが強調された。 「お前もしたくてこんな事してたんじゃないんだろ?」 「……うん。でも、人肌恋しくなるのも確かだったから」 「で、本当はいくつなんだ?」 シオンは言うか悩んでいるのか、黙っている。 「当ててやろうか?」 目を上げたシオンに、 「15歳?」 「16歳」 やっぱり……思わず苦笑が浮かびシオンを見た。 「とりあえず、お前には死んだ振りしてもらわないとな」 「死んだ振り?」 「殺したって事にしておくから、その間に逃げろ。こんな事やめて、やり直せ」 「……」 シオンは体を起こすし、艶っぽい目で旭陽を見下ろした。 「今まで僕はこれで生きてきたんだ。それ以外の生き方は僕は知らない。簡単に言わないで」 黒い瞳に初めて感情らしいものが見えた気がした。 「そうだな……俺も、この仕事でずっと生きてきた。これしか知らないわ。俺も追われる身になるかもしれない。そしてお前も生きてるってバレれば、また命を狙われるかしれない」 そう言って旭陽も体を起こし、シオンと向き合った。 「これも何かの縁なのかもな。おまえ、俺と逃げるか?」 旭陽は薄っすらと笑みを浮かべ、口角を上げる。右手を差し出すと、シオンはその手をじっと見つめ、そして恐る恐る旭陽の手を握った。 「俺は殺し屋をやめる。だから、お前も体売るのやめろ」 シオンは旭陽の言葉にゆっくりと頷いた。

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