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第4話

旭陽はその夜、シオンを胸に収め眠った。シオンの肌が酷く心地よく感じ、久しぶりに夢を見る事なく、穏やかに眠れた。 ふと、下半身に生暖かい感触を感じた。 (な……んだ……?) 薄っすらと目を開け、自分の下半身に目を落としすと黒髪が目に入りギョッとした。  「シ、シオン⁈」 シオンが旭陽の中心を口に含んでいたのだ。 思わずシオンの頭を押すと、 「な、何してんだよ!やめろ!」 シオンにその行為をやめさせようとした。 シオンが口に含んだまま、目を上げた。 「なんで?」 「なんでじゃねーよ!こういう事やめるって約束しただろ」 「僕がしたいんだから、いいじゃん」 そう言ってまた咥えようとして瞬間、 「勃たねーんだよ」 その言葉にシオンの動きが止まった。 「俺、インポなの」 「う、そ……なんで?」 シオンは信じられない様子で、旭陽を見つめている。 「さぁな、ここ2年くらい全く役に立たない。だから、お前ともできない」 ぽんぽんと頭を撫でると、シオンを引き寄せ抱きしめると横になった。 「お前を抱いて寝ると良く眠れるみてーだ」 「僕は抱き枕じゃないよ」 「口でしてくれようとするなら、抱き枕にでもなってくれ」 もし、自分が不能でなかったらこの少年を抱いていたのだろうか。男との経験はないが、この美しい少年を前にしたら、男に興味がなくとも反応していたかもしれない。正直、今自分が不能である事が良かったと思った。 次の日、お昼まで惰眠を貪ると駐車場に止めてある白いバンに二人は乗り込んだ。 「これからどうするの?」 不安そうにシオンは旭陽を見た。 旭陽はギアをドライブに入れると車を発進させ、 「とりあえず、俺んち」 そう言って、自宅アパートへと車を走らせた。 「お前、荷物とか住んでるとことかあるのか?」 「ないよ。荷物もこれだけ」 手元にある、小さなボストンバッグを叩いた。 「随分と少ないな」 「僕に必要な物はないから。寝るとこはそのままラブホとか客付かなかった日はネカフェとか」 シオンは窓の外に目を向け窓を開けると、シオンの黒髪がサラサラと風になびいた。 殺し屋だと名乗ったこの男を信じていいのか、正直分からなかった。 もしかしたら、これもこの男の罠でこれから違う場所に連れて行かれ、酷い事をされるのかもしれない。そして殺されるのかもしれない。 そもそも本当に殺し屋なのか?とても殺し屋には見えない。 だが、実際額に銃口を突きつけられたのは事実だ。今でもあの冷たい感触が額に残っている。 シオンはハンドルを握る男の横顔を盗み見るように、ちらりと目を向けた。 短髪の髪は重力に逆らいツンツンと上に向かっていて、少し硬そうな髪質に見えた。笑うとヘリャリと締まりのない顔をし、垂れ目気味の目が更に垂れる。 本当にこの男が殺し屋だと言うなら、随分と頼りなさそうな殺し屋だとシオンは思った。 本音を言えば、優しそうな男に見えた。 もしこの後、この男に殺されてしまうとしても、この男に殺されるのなら、それでもいいように思えた。 アパートに着くと駐車場に車を停め、一階の角部屋の鍵を開けた。 2DKのその部屋には全く生活がなく、リビングには申し訳程度のテレビとソファがあるだけだった。 「マメに引っ越すから、物置かないようにしてるんだ」 旭陽は黒いジャケットを脱ぐとソファに置き、 「腹減ってないか?」 シオンに問うと、シオンはお腹を抑えコクリと頷いた。 冷蔵庫の残り物でチャーハンを作りテーブル置く。 「余り物で悪いけど。辛うじて米はあったから」 シオンは目の前の食事に、目を輝かせているのが分かった。 (かーわいいな) 子供らしいその表情に、旭陽は笑みを浮かべた。 恐る恐るスプーンを口に入れると、その後は勢い良くシオンは目の前の食事を平らげていった。 「美味かったか?」 シオンは夢中になって食事をしていた事が今になって恥ずかしくなったのか、顔を赤らめ黙って頷いた。 「ご……馳走さまでした……」 シオンは食べた食器を重ねシンクに置くと、それを洗い始めた。 「洗い物、頼んでいいか?」 洗っているシオンの背中に言うと、少し振り向き小さく頷いた。 旭陽は寝室に入ると、スズキに電話をした。 殺し屋をやめる、そうは言っても簡単な事ではないのはわかっていた。 雇い主のスズキには『暫く休暇をくれ』そう伝えた。 今まで、長い付き合いの中でそんな事を言ったのは初めてで、淡々としているスズキも電話の向こうで驚いているのを感じた。スズキは悪夢にうなされている事も自分がEDである事も知っていた。 『まぁ、たまにはいいだろう』 渋々だったが、スズキは了承してくれた。 今回の件の報告をどう言うべきか悩んだ。 『で、今回のターゲットって?』 悩んでいる側から尋ねられた。 「ああ、なんか、男娼?だった」 『ふーん、残念だったなやれなくて』 揶揄うように言われ、 「インポじゃなくても、男相手に勃たねーよ」 そう言い放つと、タバコに火を付けた。 「死体はスーツケースに入れて、海に捨てといたから」 『分かった、依頼主には報告しておく。どうしてもやってほしい仕事の時は連絡する』 そう言ってスズキとは電話を切った。 (さて、どうするかな……) まずはここのアパートを引き払って、遠くに行こう。とにかく、この街を離れる事を第一に考えた。 シオンが死んでいない事は、遅かれ早かれバレてしまうだろう。自分はいい、だが、シオンには生きていて欲しかった。 幼い自分が妹を守れなかったその報いを、シオンにしようとしているのかもしれない、そう感じた。

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