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第8話
二人はとにかく車を走らせ、本土の端まできてしまった。そこは片田舎の小さい町で、着いて早々アパートを探し始め、メゾネットタイプのアパートの物件が目に留まると即入居可能とあり、さっさとそこに決めてしまった。
「お前の布団、買わないとな。あと、キッチン用具も買いに行こう」
部屋を見渡し、シオンを見下ろすと不満そうな不貞腐れたような顔をしていた。
「別々で寝るの、嫌か?」
「別に……あんた寝相悪いから、いいんじゃない?」
「え?俺、寝相悪い?」
「何回か蹴られたし」
「うっそ……!ごめーん」
ヘラリと旭陽は笑う。
近くのショッピングモールに行くと、食器や調理器具を一通り買い揃えた。
「なんか、新婚カップルみたいだな」
旭陽がそう言うと、思わずシオンは旭陽の腹を肘で突いた。
「ぐえっ……」
「変な事言わないでよ、おっさん。どう見たら、男同志の僕たちが新婚カップルに見えるわけ?せいぜい歳の離れた兄弟でしょ」
ギロリと睨まれた。
「だって、お揃いで食器とか揃えてる辺り、カップルじゃんよ」
旭陽が持っているカゴに目を落とせば、お揃いのマグカップ。
「ちょっと!何勝手にお揃いにしてるの⁈やめてよ!」
シオンが一目惚れした黒猫がシルエットになっているマグカップの色違いが、いつの間にかカゴに入っていた。
「えー、いいじゃん別に」
「キモい……」
「キモいとか言わないで、傷ついちゃう」
大きい体をくねらせている。
(ホントにこの人、殺し屋なのかな……)
思わず疑いの眼差しを旭陽に向けた。
普段はいつも締まりのない顔をし、ヘラヘラと飄々としていて、とても殺し屋になど見えなかった。
だが、実際自分はこの男に殺されそうなった事を思い出す。
一通りの買い物を終えた二人は、新居であるアパートに帰った。
シオンは旭陽にお金の負担をかけている。さすがに、炊事洗濯掃除はやろうと決めていた。正直、料理は苦手だったが、今は携帯という便利な物がある。それを見つつ、料理を覚えていこうと思った。
今日は、買ってきた惣菜で夕飯は済ませ、シオンはソファにゴロリと寝そべった。
旭陽はタバコを燻らせながら、ノートパソコンを開いてる。
早速携帯を取り出し料理のアプリを立ち上げ、メニューを見てみる。
「あっ!お前、携帯持ってのんか」
「当たり前じゃん」
「着信とか残ってたか?」
「出会い系の問い合わせくらい」
「そっか、それ解約しとけ。俺の名義で新しく買えよ」
そうだ、自分は死んだ事になっているのだと思い出す。
「わかった」
「携帯ショップは明日、行こう。とりあえず、電源は切っとけ」
携帯を買うにしろ、また旭陽に負担をかけてしまう。体を売ることをやめた今、自分で自由に使えるお金はすでに底をついている。
旭陽も今は仕事を受けてはいないはずだ。どれだけ持っているのかは分からないが、それだっていつか無くなってしまうだろう。
(アルバイトでもしようかな……)
今度、旭陽にアルバイトをしてもいいか聞いてみようと思った。
引っ越したこのアパートには、部屋が二つあった。必然的に一部屋はシオンにあてがわれる。
風呂を出ると入れ替わりで旭陽が風呂に入っていった。
自室に戻ると、目の前には布団だけがひかれている殺風景な部屋。窓辺には買ってもらったご当地キャラのぬいぐるみと水族館で買ってもらったイルカのぬいぐるみが鎮座している。
布団に入ると、目を瞑る。旭陽の顔が浮かび、キスをされ旭陽の手で触れられた事を思い出す。思い出すと腰がズクリと疼き、傷だらけの体に組み敷かれ、旭陽のモノが自分の中に入ってくるのを想像した。勃ち上がった自分の中心にそっと手をかけた。
その時、コンコンとノックの音が聞こえ、
「寝ちまったか?」
旭陽の声が聞こえ、ハッとして起き上がる。
「な、なに?」
「読めない字があって」
少し息を整えてると、極力平静を装い扉を開けた。
旭陽が携帯を片手に立っていた。シオンを見た旭陽は少し面食らったような顔をしている。
「どれ?」
「ここ」
携帯を覗き込み、指さされた箇所に目を落とす。
その漢字の読みを告げると、
「サンキュー」
そう言って、何事もなく階段を降りて行った。
少しホッとし扉を閉め、再びベットに横になった。
目を閉じうつらうつらとすると、またノックの音が聞こえた気がして目を開けた。夢かとも思ったが再びノックの音がし、夢じゃないのだと分かり体を起こした。
「また読めない字でもあったの?」
シオンは目を擦りながら扉を開けた。
次の瞬間、唇を塞がれた。
「んっ!」
そのまま、布団に押し倒された。
「一人でしてた?」
そう耳元で囁かれ、ゾクリと腰が疼いた。
「し、してない……」
「じゃあ、しようとしてた?」
旭陽はそう言って、シオンの中心に触れた。
「したかったら、俺が手伝ってやるから、言えよ」
「勃たないくせに……っ!あっ……」
下着の中に旭陽の手が入り、直接触られ思わず身をよじった。
「ま、それはそうだけとな。このくらいの事はしてやれるぜ」
下着を下ろさると、旭陽はシオンの中心を口に含んだ。
「やぁ……そんな事しなくてもいい……から!」
舌先で舐められ、口に含むと口の中で上下に動く。生暖かい旭陽の口の感触が気持ち良く、シオンの体が小刻みに震えた。
「……っ、はぁ……もうイくっ……」
「イけよ」
あっさりとシオンは旭陽の口で達してしまった。
旭陽はそのままゴクリとシオンの精液を飲み込むと、ニヤリと笑った。
「の、飲んだ……」
「にげー」
「バ、バカなの⁈」
「飲んでもらうのは男のロマンだろ?」
その得意そうな顔に、シオンは堪らず布団を頭から被った。
「信じられない……」
ポンポンと布団の上から叩かれると、無理矢理掛け布団を剥ぎ取られ、旭陽はシオンの隣に寝そべり横になる。
「一緒に寝ようぜ、やっぱり」
そう言って、シオンの背中を抱きしめた。
回された腕に目を落とし、その大きな手を握りしめた。
(この先もずっと、この手を握っていられる?)
そう問うてみたくても、この先一生いられる保証などどこにもない。
今だけはこの手を離したくない、そう思うとシオンはその手をギュッと強く握った。
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