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第9話
2人の生活が1ヶ月程が経った。
結局2人は一つのベットで毎日眠っていた。
シオンのを手でしてくれる日もあれば、キスだけの時もあるし、何もしないで抱き合って眠る事もあった。そんな日々がとても穏やかで、毎日が幸せだった。
2人にとって、こうして穏やかで平和な日々を過ごせたのは、生きてきて互いに初めてだった。普通の日々が、こんなにも幸せである事を2人は噛み締め1日1日を過ごしていた。
その日、旭陽は用があると言って出掛けてた行った。帰るのは夜中になるから、先に寝てろと言われた。
旭陽と共に行動するようになってから、初めて1人で過ごす夜だった。1人で食べる食事は味気なく、あまり喉を通らなかった。
干しておいた洗濯物を畳んだ。
ここに来ていつの間にか自分の物が増えていて、下着や洋服を旭陽が勝手に買ってきているようだった。
旭陽の物は、いつも着ている黒のジャケットと白シャツが数枚、白い無地のTシャツとデニムが2本だけだった。
ふと、ソファを見ると、脱ぎ捨てられた白いシャツ。どうやら洗濯し忘れてしまったようだ。
それを手に取ると、旭陽が吸っているタバコの匂いと旭陽自身の匂いを感じた。シャツに頬ずりし、大きくその匂いを嗅ぐと、酷く安心した。その匂いを嗅いだだけでも、シオンの腰が疼き始めた。
ソファに座り下着を脱ぐと、ゆるく勃ち上がった自分の中心に手をかけた。
(あ……さひ……)
旭陽に触られているのを思い出し、真似をするように中心を触ってみる。
『シオン……』
耳元で旭陽の低く響く声を感じる。ブルリと大きく体が震え、旭陽のシャツの匂いを嗅ぎながら吐精した。
(変態だ……)
自分の精液で汚れた右手を見下ろし、自己嫌悪に陥る。
テレビも見ていても全く頭に入ってはこない。
(ご飯、食べるかな……)
手持ち無沙汰で旭陽の為に夜食を用意してやろうと、キッチンに立った。
夜の1時まで待ってみたが旭陽は帰っては来なかった。諦めて布団に入るとカチャリと鍵が開く音がし、ドサッと音がした。
シオンは玄関まで足早に行くと、そこにはボロボロになっている旭陽が倒れていた。
「ねえ!どうしたの⁉︎」
グッタリと横たわる旭陽を起こすと、薄汚れ傷だらけだっま。シオンの手が濡れたように感じ、それを見ると手が真っ赤に染まった。
「血……」
見れば、旭陽の左腕から血が滲んでいた。
「先寝てろって……言っただろ……」
虚ろな目を向け、旭陽はそれでも笑おうとしている。小さな体で旭陽を抱き起こし、リビングのソファに寝かせた。
「仕事……してきたの?」
「……ああ、どうしてもって言われちまってな」
もう辞めると言っていたのに、裏切られた気分だった。
「悪いんだけど……俺の部屋のクローゼットから薬箱取ってきてくれ」
言われるまま、旭陽の寝室に入るとクローゼットを開けた。ガランとしたそのクローゼットの奥に、大きな金庫のような物が重々しく鎮座していた。
それを見なかった事にして、すぐ目に入った薬箱を手に取り旭陽の元に戻った。
「サンキュー」
上半身裸になっていた旭陽の左腕は血で真っ赤に染まっていた。
「僕、タオル持ってくる」
シオンは震える声を抑えながらそう言うと、洗面所で赤く染まった手を洗い、タオルを1枚濡らすと数枚のタオルを手にリビングに戻った。
旭陽はタオルを口に咥え、左腕にピンセットを突っ込んでいた。その光景に思わずシオンは顔を背けた。
「ぐ……っ、ぐっ……!」
苦痛に顔を歪めながら、旭陽は勢い良くピンセットを抜き取ると、ポトリと小さな弾が床に落ちた。ダラリと腕を垂らし、ハァハァと苦しそうに大きく肩で息をついている。
旭陽の前に立つと、タオルを差し出した。旭陽の顔は血の気が引き真っ青だった。
「病院……行かないの?」
「んー?拳銃の弾食らったので、取って下さい、なんて言えるわけないだろー?」
「そうだけど……」
シオンは旭陽の横に腰を下ろし、濡れたタオルで汚れた顔を拭いた。
「冷たくて気持ちいいな」
少しホッとした顔を浮かべ、旭陽は目を瞑った。しばらくされるがままになっていたが、シオンの腕を取った。
「薬塗るから包帯巻いてくれよ」
そう言って、薬箱から塗り薬を取り出し、顔を歪めながら傷口に塗り始めた。
シオンはガーゼを適当な大きさに切り、テープで固定した。その上に包帯を巻いた。
「サンキュー」
旭陽は力なく笑うと、そのまま目を閉じた。
「嘘つき……」
そう呟くと、旭陽に抱きつき泣いた。その時、この男は死と隣り合わせなのだと実感させれられた。
「シオン……痛い……」
「嘘つき……辞めるって言ったのに……」
「うん……ゴメンな。あ、そーだ。今やってる漢字ドリル終わったから、次の買いに行こうぜ」
そう言って頭を撫でられると、コクリと頷いた。
その怪我が原因で旭陽はその日から発熱し、寝込んでしまった。それをシオンは付きっ切りで看病をした。
冷蔵庫を開けると食料が底を尽きそうだった。薬も欲しいし変えの包帯もない。現金を入れている引き出しを開けた。お金が必要になったら使っていいと言われていたが、手を付けた試しはない。だが、そこには千円しか入っていなかった。
(そっか……この前レンジ買っちゃったからな……)
旭陽も現金を足すのを忘れていたのだろう。
きっと、旭陽に言えばお金はくれるとは思う。ジャケットの内ポケットには財布が入っているのも知っている。だが、そんな事などできなかった。
タオルを濡らし旭陽の額に置くと、シオンは部屋を出た。
自転車に跨るとシオンは市内の繁華街に向かった。この自転車は旭陽に欲しい物を尋ねられた時、唯一欲しいと言った物だった。赤いマウンテンバイクで、サイクリングショップで見た時に一目惚れした物だ。
繁華街まで自転車で一時間程かかる。自転車を降り、携帯でこの辺の情報を調べてみる。あるお店の情報が目に入り、その付近でしばらく人が来るのを待った。
「君……いくら?」
目の前にスーツ姿の男が声をかけてきた。
「3万」
そう言うと、男に肩を抱かれ近くのラブホテルに入った。
(あいつだって、辞めるって言って結局続けてるんだ。一回くらいなら……)
バレないようにすれば大丈夫だと、言い聞かせた。
正直、肩を抱かれただけで嫌悪感が湧き上がった。
本当は旭陽以外に触れられたくはない。
終始ぎゅっと目を閉じ、終わるのをひたすら待った。
(旭陽……旭陽……)
無意味だとは思いつつも、男を旭陽に見立てて抱かれた。
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