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第10話

帰り道にある、24時間のドラックストアに寄り必要な物を買い揃え、アパートに帰った。 旭陽の寝室をそっと覗くと、 「シオン……?出かけてたのか……」 そう声をかけられた。 「うん、ドラックストアに行ってた」 側に行くと買った袋を脇に置いた。 「お水、飲む?」 「ああ……」 体を起こし、ペットボトルを受け取ると一気に飲み干した。 「金は……どうした?」 ギクリとし思わず肩が揺れた。 「勝手に財布から取った……」 「嘘つけ。お前がそんな事するわけねーだろ。引き出しの金はもうなかったはずたぞ」 旭陽の声には怒気が含まれ、シオンは顔を上げる事が出来ず小さく震えた。 「体、売ったのか……?」 「……」 それでも黙っていると、胸ぐらを掴まれた。 「キスマーク!付いてんだよ!」 怒気を含んだ目が自分に向けられ、掴んでいた胸ぐらを荒っぽく離された。 「旭陽だって!辞めるって言って、辞めてないだろ!なんで僕だけ怒られるの⁈」 「お前は子供なんだ!金なんて稼がなくていいんだよ!」 シオンの瞳からハタハタと涙が溢れる。 「あんたの為に何かしてあげたいって思っちゃダメなの……?確かにお金は稼げないけど、いつも与えて貰うばかりで、僕だって何かしてあげたいって……!」 それ以上言葉を続ける事ができず、旭陽の部屋を飛び出すと、 「シオン!」 背中で自分を呼ぶ声が聞こえた。 シオンはそのまま外に飛び出し、近くのコンビニまで走った。あてもなく中に入ると、とりあえず飲み物を買おうと思った。雑誌コーナーに目を向けると、フリーペーパーの棚が目に入る。求人情報誌に目が行き、何冊かあるそれを手に取った。 (アルバイト……僕にできる仕事ってあるのかな?) 少し冷静になってくれば、確かにこんな汚れたお金で何かを買ってもらっても嬉しくない気持ちもわかる気がした。 飲み物を一つ買うと外に出た。 その時、携帯が震え見れば旭陽からのメールだった。 『ごめん。帰ってきたらほうたい買えて』 誤字のある旭陽の文書に思わず吹き出すと、 (帰ったら、教えてあげないと) 携帯をしまい、旭陽が待つアパートに向かってシオンは歩き出した。 玄関に入ると、慌ただしく旭陽が出迎えてくれた。その顔は泣きそうで子供みたいだな、とシオンは思った。シオンは旭陽の胸に抱きつき胸に収まると、旭陽はぎゅっと抱きしめてくれた。 「ごめんなさい」 「俺こそごめんな。お前が他の誰かに触られたって思ったらムカついた」 シオンが顔を上げると、旭陽のキスが降ってきた。何度も啄むキスをされ、最後は深く口付けされた。 リビングに行くと、旭陽の為にお粥を出してやった。それを食べながら、旭陽はテーブルにある求人情報誌に目を止めた。 「何これ?」 手に取るとシオンに尋ねる。 「アルバイト……しようと思って」 「バイト……」 口を動かしながら、旭陽は目を天井に向けた。 「やっぱり、自分で自由に使えるお金欲しいから……」 「そっか……まぁ、でも無理すんな。お前一人くらい養えるくらいの蓄えはあるから」 正直、殺しで稼いだお金は使って欲しくはないのが本音だった。 「この仕事、辞めるって言ったけど……やっぱり、いきなり辞めるのは正直難しいんだ。極力やらないようにはするけど、我慢してくれ」 「それは……わかってる」 一度目を伏せ、再び顔を上げると、 「お願いだから、死んだりしないで」 涙目でシオンはそう言った。 「うん……」 旭陽はそう一言返事する事しか出来なかった。 シオンは近所の洋食屋でバイトを始めた。履歴書の内容は全てデタラメだったが、疑われる事はなかった。愛想もなくぶっきらぼうな感じではあったが、それでも雇い主である中年の夫婦は優しく見守ってくれた。 偽名は『タナカ メグム』 旭陽の偽名であるアキラの弟という事になっている。 《愛》と書いて《メグム》 旭陽が考えてくれた名前だった。 『俺の愛しい人だから』 そうヘラリと笑みを浮かべ、旭陽は言った。 時たま旭陽は、シオンの迎えがてらにご飯を食べにやってきては、一緒に帰るという日々を送った。 すっかり顔馴染みになり、雇い主の夫婦は旭陽の事を気に入ってくれたようで、いつもサービスをしてくれていた。

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