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第13話

「う、そ……」 「俺も驚いたよ。あの正体不明のターゲットがその、柿原財閥の孫の中森詩音だった。うちに殺しの依頼をしてきたのは会長の後妻、彩子からだった。彩子には20歳くらいの連れ子の息子が1人いて、彩子は当然息子に会社を継がせ、財産ももらいたい。だが、そこに浮上したのが中森詩音の存在。孫がいると知れば、会長の和之は中森詩音を探し始めるだろう。もし、その孫が見つかってしまえば、血の繋がりのある詩音に会社を継がせようと和之は思うだろうってな」 「それで、柿原和之にシオンの存在を知られる前にシオンの殺しの依頼を?」 コクリとトキは頷くと、ところがだ、と再びトキは話を続けた。 「その会長の柿原和之が中森詩音の存在を知ったらしく、探して欲しいってコンタクトがあった。そりゃあ、破格の金を提示されて俺は浮かれたよ。だが、調べみたらどうだ。すでにお前に殺された後だった。もう、ガックリしたよ、俺は。順番が逆だったら迷わず柿原和之の依頼を受けていたよ。だから俺は今、非常に喜んでいるんだよ、クロウ」 そう言ってトキはニヤリと笑いわざとらしく両手を広げている。 「少なくとも、シオンは殺される心配はないって事か?」 「そうなるな。柿原和之に引き渡せば、中森詩音の命の保証される」 そうなると、必然的にシオンと離れて離れになってしまうという事だ。正直言えば、シオンとは離れたくはない。だが、シオンの命を優先するならば、柿原和之に引き渡す方が最善の案だとは思う。 「離れたくないか?」 「いや……まあ、そうだな……」 旭陽は両手を合わせ、その手をじっと見つめた。 「お前とはガキの頃からの付き合いだしな。そんなヘタレなお前を見るのも面白い」 顔を上げると揶揄うようなトキの顔。 「トキ……」 「少し時間をやる」 トキはそう言うと、タバコを灰皿に押し潰した。 「いいのか?」 「最終的に中森詩音を引き渡すのが条件だ。俺は、柿原和之に中森詩音は生きている、そう伝える。そうなると、後妻の彩子が中森詩音が生きてるって耳にするのも時間の問題だ。また、命を狙われるかもしれない」 「もし……」 旭陽は組んでいる手に再び目を落とした。 「もし、俺に何かあったら……シオンを頼んでいいか?」 真っ直ぐな目をトキに向けると、 「ああ、わかったよ」 そう言うとトキは口角を上げた。 「まぁ、精々今のうちに愛を育んでおくんだな」 その時、玄関の扉が開く音が聞こえた。 「バイトからシオンが帰ってきたみたいだな」 「ただいま……」 リビングにシオンが姿を現し、トキとアンディを見て目を見開いている。 「お客さん?珍しいね……」 少し顔が引きつっているのがわかった。 「子供じゃねぇか。ショタでホモっておまえ大丈夫か?」 トキはシオンに聞こえないように、旭陽に言った。 「おまっ……!そういう事、言うなよ……!」 トキに言われ、改めて未成年の子供に手を出している罪悪感に襲われた。 「スズキだ、宜しく」 トキが名乗るとシオンは小首を傾け、 「スズキにタナカ……胡散臭いにも程があるね、おっさんたち」 そう言い放った。 その悪態にトキは目を丸くし、ポカンと口を開けている。 「まぁ、こんなんだ」 ハハハッと旭陽は苦笑を浮かべた。 「腑抜けた顔してんなよ、クロウ」 トキが旭陽をコードネームで呼んだ事にシオンは反応した。 「クロウ?」 「こいつのコードネームだ。本名知ってんだろ?」 「確か、烏丸……だからクロウ?」 「そう、俺はトキ。本名は内緒だ」 そう言ってトキは立ち上がった。 「帰るのか?」 「この後、仕事があるからな。邪魔した」 トキを見送る為、旭陽は玄関まで行く。 「また、仕事頼むかもしれない」 「ああ」 「早く覚悟決めろよ」 トキは旭陽の肩を叩くと、隣でアンディが軽く頭を下げた。 目の前には嫌味なほど黒光りしている国産の高級車が止まっている。しかもSUVタイプで新車なら1000万はくだらないだろう。 それに歩み寄ると運転はアンディがするようで、アンディが運転席に乗り込み、後部座席にトキが乗り込んだ。エンジンをかけると、軽くタイヤを鳴らしあっという間に見えなくなった。 トキが帰り、ふーっと大きく息を吐いた。 この話をいつ切り出すべきか悩んだ。 シオンはどう思うだろうか。嫌だと泣くだろうか?それとも、あっさりと帰るべき家へ帰るだろうか? 「ねえ、ご飯食べるでしょ?」 キッチンからシオンの声が聞こえた。 「うん、食べる」 旭陽はキッチン立っているシオンを後ろから抱きしめた。 「危ない、包丁握ってるから」 シオンは手を止めると振り向いた。振り向いた瞬間、旭陽の唇が触れた。 チュッチュッと唇を啄むキスを繰り返している。 「今日新しいメニュー教わったんだよ」 「ふーん、何?」 「オムライス」 「俺の好物」 「ホント?じゃあ、良かった」 ふわりとシオンは綺麗に笑った。 その顔を見た瞬間、旭陽は堪らなく泣きたくなった。正面からもう一度シオンを抱きしめると、頭をシオンの肩口にグリグリと押し当てた。 「何?子供みたい」 「うーん?幸せだな、って思って」 旭陽はそう言って、今度は深く口付けると、シオンは旭陽の手をぎゅっと握った。

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