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第14話

その日は唇がふやける程キスをした。ズクズクと疼くシオンの中心を、旭陽の手の中で吐精した。 あのトキという男が来てから、少し旭陽の様子が変わった気がしていた。妙に優しい、そう思った。元々優しいところはあったが、いつも旭陽はシオンから離れようとはせず、まるで恋人同士のような甘い雰囲気を醸し出していて、少しくすぐったい気持ちになる。 自分たちの関係を言葉にするには難しかった。お互いの体に触れたりキスはしていたが、だからと言って恋人同士なのかと聞かれれば、そんな一言では足りない気がした。 例えるなら、自分の半身、2人で1人。今の自分は旭陽あっての自分なのだとシオンは思う。 当たり前のように、シオンは旭陽に惹かれていった。素直になれなくて、気持ちなど伝えた事はなかったが、片時も離れたくはないと思う。旭陽からも一度も気持ちは聞いた事はない。少なくとも、自分と同じを気持ちを抱いてくれてるようには感じる。ただ、自分が旭陽を思う程の熱量は、旭陽にはないかもしれない。 どこかで旭陽は、死んだ妹と自分を重ねているのではないかと思う時もある。妹を守ってやれなかった事を今、自分を守る事で償っているのかもしれないと、そうシオンは考える時もある。 それでも良かった。 (理由なんてなんだっていい。旭陽とずっと一緒にいられるなら) シオンがただ一つ望む事は、旭陽と共に生きて行く事、それだけだった。 「ここ、一本線足りないよ」 そう言ってシオンは、目の前の下手な漢字を添削する。 「そうだっけ?」 「あと、ここに点」 小学校六年の漢字ドリルと旭陽は格闘していた。 「漢字って読めたりするけど、書くってなると出てこないよな」 「そうだね。結構、皆んなそうなんじゃない?」 「お前さ、学校行けば?」 不意に旭陽はそんな事を言い出した。 「何、急に?」 「普通に学校行ってれば、高校1年?」 旭陽は何かを思い浮かべているのか頬杖を付き、視線を天井に向けている。 「まぁ、そうだけど」 「来年受験してみたら?」 「いいよ、別に、学校なんて」 「勿体ねぇじゃん、お前頭いいんだし。できた」 そう言って、終わったドリルをシオンに差し出すと、シオンは採点をし始めた。 「高校行ってさー、友達とか作れよ」 「いらないよ、友達なんて」 旭陽がいればいい、そう思ったが口に出すことはなかった。 「でも、真面目に考えてみろよ。それに、シオンの制服姿見てみたいなぁ」 旭陽はシオンの頭をクシャリと撫でた。 「なんか、それって危ない人みたい……」 シオンは怪訝そうな顔を浮かべ、シオンの言葉に目を丸くしている旭陽を見た。 「否定はしないな。今、制服姿のおまえが頭に浮かんだからな」 そう言って、ニヤリとイヤらしい笑みを浮かべている。 「変態オヤジ」 「できましたよー、シオン先生」 おちゃらけた風に、旭陽は書き終わったドリルをシオンに渡した。 採点が終わり、満点だったそのドリルにシオンは花丸を付けてやった。それを見た旭陽は、フニャリ顔を破顔する。 「明日、どっか行くか?バイト休みだろ?」 うーんと腕を上げて旭陽は伸びをした。 「どっかってどこ?」 「そうだなー、映画でも観るか?それとも動物園とか?」 「どこでもいいよ」 (旭陽と一緒なら……) そう続く言葉をシオンは飲み込んだ。 結局、次の日は映画を見て買い物をして街をぶらついた。 目に付いたアクセサリー屋に入ると、旭陽はペアのネックレスを買ってくれた。ペンダントヘッドは肩翼の形をしており、二つを合わせるとその翼がハートの形になる変わったデザインだった。 「おまえにプレゼントらしい物って買ってやってなかったから、たまにはいいだろ、こういうのも」 そう言って、その場でそのネックレスを付けてくれた。 「あ、ありがとう……」 真っ赤になった顔を伏せ、そっとそのネックレスを触った。旭陽の大きい手が頭に触れる。 (今凄く幸せだ、僕は) シオンはこの穏やかで幸せな時間がずっと続くと信じていた。 そんなある日。 バイトが終わり、アパートに帰ろうとシオンは自転車が止まっている駐輪場へ歩いていた。自分の自転車の鍵を外そうとしゃがんだ時、後ろに人の気配を感じた。振り返ると、二人の男が立っていた。いかにも、堅気に見えない出で立ちの柄の悪そうな男で、シオンは嫌な予感しかしなかった。 「中森詩音だろ?お前」 派手なシャツを着た男に言われる。 「違います。人違いじゃないですか?」 自転車の鍵を外し跨る。 「嘘つくな」 胸ぐらを掴まれ、それをシオンは振り払う。 「警察呼びますよ」 そう言って、シオンは携帯を取り出した。 「ちっ」 男たちは一旦引く事にしたのか、その場は大人しく帰っていった。

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