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第15話
アパートに着いたシオンは、部屋の電気が点いている事にホッとし、鍵を開けて中に入った。
「ただいま……」
「お帰り、今日の晩飯は中華丼だぞー」
浮かれた旭陽の声がキッチンから聞こえた。
テーブルにつき、目の前のご飯に手を付けるが、あまり味がしなかった。
先程の事を言うべきか悩んだ。だが、言わないわけにはいかない。自分と旭陽の命に関わる事だ。
「どうした?美味しくなかったか?ちょっと薄かったか?」
大きく首を振り、さっき……と口を開くと、箸を置いた。
「ヤクザっぽい男に、声かけられた」
旭陽の動きが止まり、目を丸くしている。
「なんて?」
「中森詩音か?って。違います、とは言ったけど……」
旭陽はゴクリと咀嚼した物を飲み込み、水を一口含んだ。
「そっか……。まぁ、とりあえず、飯食べろよ」
2人は黙々と夕飯を済ませ、いつものようにリビングのソファーに腰を下ろした。
「お前に話さないといけない事がある」
いつになく神妙な旭陽の顔に、シオンの心臓がドクドクと鳴り始めた。
「お前の出生の秘密っていうのかな?なんで、お前が命を狙われたのか話してなかったよな?」
「うん……だって、旭陽だって知らないって……」
「最初は俺も知らなかった。でも、この前トキが教えてくれた」
そう言って旭陽は、淡々と先日トキから聞いた話をシオンし始めた。
シオンの少し驚いたような戸惑ったような顔をしていたが、現実味がないのか取り乱す様子はなかった。
「そんな話聞いても、実感ないよ。今更じいちゃんなんて……」
祖父とは血の繋がりは確かにあるかもしれないが、目の前の旭陽との方が余程家族と思える。
「まぁ、そうだよな。でも、今、またお前の命が狙われ始めてる。ここは柿原和之に匿 ってもらうのがいい」
出生の話してもさほど顔色を変えなかったシオンの顔が、旭陽のその言葉にみるみる血の気が引いていった。
「それって……離れ離れになるって事……?」
シオンの声は震えていた。
「そう……なるな……」
「い、嫌だ!絶対嫌だ!旭陽と離れるなんて、絶対嫌!なんでそんなにあっさり言えるの!?」
シオンは旭陽の腕を掴み、揺さぶった。
そんな事をあっさりと告げてきた旭陽に、シオンは無性に腹が立った。
自分と離れる事を何とも思わないのか、悲しくはないのか、自分が思うような感情を旭陽はないように感じ、命が狙われる恐怖心よりも、悲しみの感情の方が増した。
「落ち着け!シオン!俺だって……!俺だって離れたくねえよ!」
旭陽は震えるシオンを抱きすくめると、
「少しの間だけだ。お互い生きてなければ、会う事もできないだろ?」
「やだよ……嫌だよ……」
そう言ってポロポロと涙を零し、旭陽の胸に顔を埋めた。
「必ず迎えに行く。だから、少しだけ我慢してくれ」
なっ?そう言って、旭陽はシオンの顔を覗き込み、触れるだけのキスをした。それでもシオンは力なくずっと首振り続けた。
「シオン……また、一緒に暮らそう。犬か猫でも飼ってさ」
シオンの涙で旭陽のシャツはすっかり濡れ、シオンはぐしゃぐしゃな顔を上げた。
旭陽は泣きそうな顔をしていた。それでも無理に笑おうとしているのか、眉毛が八の字に垂れ下がっている。
(旭陽も辛いんだ……)
シオンは旭陽の胸に顔を埋めると、目を閉じた。
「黒猫……」
「ん?」
「黒猫がいい……」
「黒猫?」
旭陽はフッと笑みを零し、
「わかった。黒猫な」
そう言って頭を撫でた。
「黒猫飼って、クロウって名前にする……」
「名前まで決めてんのかよ」
ハハハッ、と声を出して笑った。
「よし、じゃあ、荷物纏めろ。早速出るぞ」
コクリとシオンは頷き、腰を上げた。
お互いに荷物を纏める為に、自室に入る。
とうとう離れる時が来てしまった――。
シオンにはああは言ったが、例え自分が生きていても再び会える保証はない。
叶うのなら――
またシオンと共に生きていきたい、そう旭陽は願った。
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