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第16話

シオンが怯えたように旭陽の寝室に入ってきた。 「どうした?」 「さ、さっきの、2人組みたいのが……」 「いるのか?」 「よくは見えないけど、外に黒塗りの車が停まってて、多分、さっきの奴っぽい……」 2人はカーテンの隙間から下を覗くと、アパートの駐車場を挟んだ道路の反対側に、怪しい黒塗りのベンツが停まっており、助手席の窓からタバコを持った腕が出ていた。 「あっ、あのシャツの色……」 「間違いないのか?」 シオンは旭陽の腕をぎゅっと掴むと、コクリと頷いた。 「お前は荷物まとめてろ。様子見て来る」 頭を撫でるとシオンは再び自分の部屋に戻って行った。 旭陽はクローゼットから拳銃を手にすると、サイレンサーを取り付ける。 旭陽は外に出るとベンツに近寄り、コンコンと閉められた窓を叩いた。 「なんだよ!」 「すいません、ここ停められちゃうと困るんですよね」 ヘラリと笑みを浮かべると、二人組みはチッと舌打ちをした。前を向き、運転席の男がエンジンをかけようとした瞬間、パスッパスッと2発乾いた音と共に、一瞬にして車内に血の匂いが広がった。 「用意できたか?」 「うん……」 腕にはボストンバッグとぬいぐるみを抱えていた。 「それ、持っていくのよ」 旭陽は目を丸くした目で見ると、 「だって、旭陽がせっかく買ってくれたから……」 「また、いくらでも買ってやるから、それは置いていけ。荷物になるから」 仕方なくシオンは、ぬいぐるみを窓辺に置き、名残惜しい様子で部屋を出た。 バイト先を黙って辞める事に心苦しさを覚え、お店のポストに一筆書いた手紙を入れた。夫婦で経営している洋食屋でのバイトは楽しかった。優しい夫婦で、愛想がいいとは言えない自分に優しくしてくれ、こんな祖父母が欲しいと思った。一緒にバイトしていた夫婦の娘は20才の大学生で、自分を弟のように可愛がってくれた。いつかきっとまた、お店に来ます、そう綴った。 「いい人達に巡り会えて良かったな」 ハンドルを握る旭陽が優しく微笑みそう言った。 「うん、凄くいい人達だった」 「また二人で来よう」 旭陽の言葉にシオンは小さく頷いた。 それから旭陽はひたすら車を走らせた。 シオンの祖父、柿原和之の自宅がある都内に向かっていた。 逃げる為とは言え、日本のかなり端に来てしまった為、都内に辿り着くには日を要した。新幹線を使えば早いのだろうが、何かあった時の逃げ場ない事を恐れた。 異変に気付いたのは、丸一日経った頃。尾けられていると感じた。既に、新手の追手を仕向けていてもおかしくはない。旭陽は人里離れた山中に車を向かわせた。 「何でこんな山奥に?」 助手席のシオンが不安げな声を洩らした。 「多分、追われてる」 その言葉にシオンの顔は蒼ざめていった。 「大丈夫だから」 そう言って旭陽はシオンの肩を抱き寄せ、額に唇を落とした。 予想通り1台の黒いセダンが旭陽のバンの後ろを着いてきた。開けた土地に出ると旭陽は車を止めダッシュボードを開けると、黒光りするそれを手に取った。 (拳銃……) その動きを目で追うと、旭陽と目が合った。 「絶対に車から降りるなよ。それから、絶対こっち見るな、いいな?」 語尾を強調され、あまり見ない旭陽の真剣な眼差しにシオンはただ頷くしかなかった。 旭陽が静かに車を降りた。 次の瞬間、ポスッポスッという乾いた音と、パーン!パーン!と耳をつん裂くような破裂音が響いた。シオンは思わず耳を塞ぎ体を曲げ、少しでも外の情景が分からないようにした。外で何が起きているのか想像がつき体の震えは止まらない。 (死なないで……旭陽!) どのくらい経ったのだろうか、ガチャリと運転席のドアが開きシオンの体が大きく跳ねた。 「お待たせ」 そこには飄々と薄っすらと笑みを浮かべた旭陽がいた。まるで、トイレから戻って来ました、とでもいうような表情だ。 だが、返り血なのか顔面には血が点々と飛び散っており、白いシャツは血で真っ赤に染まっていた。 「汚れちまったから、どこかホテルにでも入ろう」 エンジンをかけ車をUターンさせた。 シオンの目に端に3人の男が倒れているのが目に入った。それを直視する事が出来ず、返り血を浴びている旭陽の顔をじっと見つめた。

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