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第18話
シオンは目を開けると、見慣れない天井が目に入った。
ハッとして横を見ると、子供のように口を半開きに開け、眠っている旭陽の姿がありホッと胸を撫で下ろした。腰から下が物凄く怠い。何度も旭陽にいかされ、最後は意識を飛ばしてしまった。
眠っている旭陽の胸に顔を埋め、旭陽の心臓に耳をあてた。
ドクンドクンと規則正しく動いている旭陽の心臓に、シオンは心地良さを覚える。
「ふがっ……」
間抜けな旭陽のイビキにシオンはクスリと笑った。
旭陽は随分と眠るようになった。
最初の頃は不眠症に悩み、目の下には常に隈ができていたが、それも薄くなりつつある。
それは、自分のおかげだと言っていた事を思い出し、シオンは嬉しさが込み上げたが、次の瞬間には悲しさが襲った。
長くは一緒にいられる時間はそう残されていないと感じた。
起きた2人はシャワーを浴びるとホテルを出た。
今日中には、柿原邸に着きたい所だが、尾行に合うことを考えると難しいかもしれない。
「待って、旭陽」
ホテルの部屋を出ると、部屋の扉を開けた目の前にある車に乗り込もうとした時、シオンが言った。シオンは、助手席のドアに手をかけたまま動きを止めている。
「どうした?」
シオンはじっと動きを止め、聞き耳を立てているようだった。旭陽も同じように周囲の音に耳をすませてみた。
「……ミャオ……ミャオ……」
か細くかき消されそうな子猫らしき声が聞こえた。
「猫?」
大きな瞳を右に左に動かし、一点に視線を合わせると一直線にそこに向かって歩いて行く。駐車場のカーテンを開け一瞬姿を消すと、黒い小さな塊を胸に抱いたシオンが戻ってきた。
よく見ると掌に乗るくらいの黒いの仔猫だった。
「仔猫……?連れて行くのか?」
「うん、だって黒猫飼ってクロウって名前付けたかったし。これって運命じゃない?」
フワリとシオンは綺麗に笑った。
二人は車に乗り込むと、ミャーミャーと元気良く鳴く仔猫を旭陽は一度目を向けた。
「ちっちぇーな、大丈夫か?」
「元気良く鳴いてるし、お腹空いてるんだと思う。コンビニ寄ってよ」
車を走らせ近くのコンビニに寄ると、シオンはパウチの仔猫の餌とミルクを飼うと仔猫に与えた。
「ミルクは水で薄めるのか?」
「本当は人間が飲むミルクをそのままあげるのは良くないから。あげるなら薄めてあげてってネットで見た」
仔猫はあっという間に餌とミルクを平らげると、満足そうにシオンの腕の中で眠り始めた。
「すっかり安心してるな……そう言えば、初めておまえを見た時、黒猫みたいだなって思った」
「僕が?」
「うん、釣り目気味の目が猫の目みたいで、髪も黒くて瞳も黒くて、黒猫みたいだなって」
そう言って右手はハンドルを握ったまま、左手でシオンの髪をクシャリと撫でた。
「この件が片付いたら、2人と1匹で田舎の方に小さな家でも買ってさ……静かに暮らそうか」
その言葉シオンの目から自然と涙が溢れた。それは次か次へと止まる事がなく、止めどなく流れた。
「うん……」
その言葉はきっと、約束ではなく旭陽の願望である事をシオンは察した。それでも本当にそうなる事をシオンは信じたかった。
信号が赤に変わると車は止まり、それと同時に旭陽がシオンを抱き寄せると深く口付けた。そして両頬を旭陽の大きな手で包まれ額を合わせると、
「おまえと出会えて良かった。俺にとって、おまえはこれ以上ない存在で、かけがえのない大切な宝だ。好きだよ、シオン」
そう言って合わせるだけのキスをされた。
「あ……さひ……」
次の瞬間、旭陽はギアをリバースに入れたかと思うと、勢いよく車をUターンさせた。
その反動でシオンの体が大きく揺れ、後頭部をヘッドレストに勢い良くぶつけてしまった。
「いたっ!」
「悪い、少し歯食いしばってろ」
勢いよく車を発進させると猛スピードで車を走らせた。
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