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第19話

『ちょっと植田!何してんの⁈こっちは高い金払ってんだから、さっさっと片付けてよ!』 ヒステリックな女の甲高い声に思わず耳に当てていた携帯を男は耳から離した。 「わかってますよ。今、追い込みかけてますんでもう少し待って下さい、彩子さん」 助手席のダッシュボードに足を乗せ、植田は携帯に向かって言った。 『これ以上お金出さないからね!』 プツッと豪快に電話がきれた。 「クソババア!こっちは仲間やられてんだよ!」 植田は悪態を吐き、荒っぽく携帯を内ポケットにしまった。 「組長の遠縁だかなんだか知らねえけど、威張りやがって!」 八つ当たりするように運転席のハンドルを握る坊主頭の頭を叩いた。 「てか何見失ってんだよ!早く追え!ハゲ!」 「すんません」 植田はタバコを咥えると窓を少し開けた。 その時、2人乗りをしている大型のバイクとすれ違った。 「おっ……ハーレーのソフテイル。しかもクラシックか?かっけーな」 「そういや、植田のアニキも昔ハーレー乗ってましたね」 「ありゃー俺が乗ってたのと比べ物ならないくらい高いバイクだ。新車だと300万近くするからな」 「うへー、高ぇー……あ!見つけましたよ!あのバン!」 前方30メートル程先に白いバンが見えた。 植田はすぐに携帯を取り出し、 「バン発見。三車線利用して囲め!」 そう言うと計4台のセダンが前後左右にピッタリとバンに貼りつき囲んだ。 「よし!例の工場跡地に誘導しろ」 前後左右と4台の車に囲まれた不自然な状態のバンを、人里離れた廃墟と化した工場跡地に誘導した。 バンは抵抗する事もなく、誘導されるがまま工場跡地に車を止めた。 男が1人運転席から降りてきた。 男……旭陽は両手を上げながら車から降りてきたが、怯えている様子もなく、むしろ顔にはにやけたような笑みすら見えた。 「中森詩音はどうした⁉︎」 拳銃を手に一人の男が車から降りるとそう声を上げた。 旭陽は手を上げたまま親指を助手席に向けた。それを見ると数人の男がそれぞれ手に拳銃を手に車から降りてきた。 旭陽は車からそっと離れるとすかさずガソリンタンクに向かって銃口を向けた。パンッ!と乾いた音と共に、一瞬にしてバンは炎に包まれ、近くにいた男はたちがその炎に包まれ、男たちの断末魔が周囲に響き渡った。 車に乗っていた植田は、唖然とそれを見つめる事しかできなかった。 「残念でした。あいつとはもう別れたよ」 旭陽はおちゃらけた口調で言うと、植田に向かって銃口を向けた。 ここにいる残された人間は4人。 「あいつ……やっぱりプロか」 「じゃあ、今まで殺された奴らは皆んなあいつに?」 運転席の坊主の男は怯えたように言った。 その時、パンッ!と銃声が響き渡った瞬間、旭陽の右の肩口から血が滴り落ち、旭陽の顔が苦痛で歪んだ。 旭陽は弾丸が飛んできた方向に目を向けると、ライフル銃を構えているフードを被った男の姿を捉えた。 「あんたがプロならこっちもプロ頼んでんだよ」 植田は旭陽に強気な発言をしたものの、車の中から発した言葉は当然相手には聞こえてはしない。 次の瞬間、フロントガラスが綺麗に蜂の巣のように割れた。運転席の坊主の男の頭がガクリと力なく垂れ、ハンドルに額を乗せた格好になる。その額から血が流れ、死んでいるのが分かった。植田は咄嗟に頭を下げ、助手席のダッシュボードの下に体をねじ込ませた。 外ではパンッパンッ!と何度か銃声が聞こえ、みっともないとも思いつつも植田は頭を抱え、震えながらそれをやり過ごす事しかできなかった。 (プロにはプロに頼むしかねえ) 殺しのおいては素人の自分に出る幕はない。 植田はそっと顔を上げると、炎上している車が見えた。あの炎の中では人が焼かれていると思うと、ゾッとした。辺りを見渡すと、殺し屋とおぼしき男たちの姿はなかった。植田はそれを確認するとそっと車を降りた。 それを見た舎弟たちも車から降りてくると、 「さっきの男は?」 植田が一人の舎弟に尋ねる。 「中に入って行きました」 「おめーらも追え!」 そう怒鳴ると舎弟たちはおずおずと工場の中に入って行った。 (あの殺し屋に任せればきっと大丈夫だろう) パンッパンッパンッ! 激しい銃声の音が中で立て続けに鳴ったかと思うと、 ドンッ! と鼓膜が破れるかと思うほどの爆発音が工場内から聞こえた。思わず耳を塞ぎその場にしゃがみ込んでしまった。 そして、更にもう一度、今度は先ほど比べ物にならない爆発音が響き渡り、周囲の景色が一瞬揺れたように感じた。 一体中で何が起こっているのか、植田には到底想像できなかった。

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