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第2話
-雨土歌-
夢旭 は言ってくれるね、出来レースだなんて。陰ながら人気者の彩波ちゃんを立てた時点で確かにオレは勝ち確定 だったのかも。でも出来レースじゃないよ、本当に。オレが立候補したら、当選で出来レース、落選でドラ息子扱いだよ。でも彩波ちゃんを推薦して良かった。出会った頃、彼女は屋上から飛び降りようとしていたけど、間に合って良かった、3つの意味で。1つめはは彼女がかなりよく働いてくれるってこと、2つめは当校 から自殺者でるのは普通に困るってこと、3つめは死なれなくて良かったってこと。彼女なりにもう整理が付いてたなら悪かったけどね。
生徒会室に待機っていうのもオレの性分じゃなくて後を追おうかなってところでドア開けた瞬間ぼふっとオレの胸元になんか当たった。ふわって女の子の甘い匂いがした。びっくりした。
「助けて!」
「は?」
助けてって言うのは聞こえたけどいきなり胸に飛び付かれてオレもちょっと動転した。髪の綺麗な女の子だった。見覚えが…ある。当校規則の爆走防止の便所サンダルが同学年の色してた。彼女が顔を上げた。琴野葉 さんだ。オレのクラスメイト。あんまり喋ったことない。
「弟が、弟が…っ」
「弟?」
「井上学院の生徒 に…」
オレは生徒会室に戻って琴野葉さんを椅子に座らせた。青褪めた顔をしていたけどめちゃくちゃ美人だった。あんまり近くで見たことないんだよな。
彼女の話は簡単で、井上学院に弟が捕まったって話だった。捕まった?鬼ごっこか何か?
「捕まったー?」
オレはたまげて立ち上がる。青褪めた顔で琴野葉さんは頷いた。
「浅海くんに話せって…浅海くん、生徒会室に居るって聞いたから…」
「浅海?夢旭に?なんで?誰から?」
彼女に訊いたって分かるわけないだろうけどオレは訊かずにいられなかった。
「電話が来たの、山兎 から。あ…山兎は、弟で…」
「疑ってるワケじゃないけど…捕まってんの?本当に……井上 学に?」
彼女は頷いた。夢旭、井上学院行っちゃった…罠じゃん、そんなの。彩波ちゃんに知らせないと。いや、オレも行こう。
「もう彩波ちゃんが…仁王さんが行ってるけど、分かった。オレも行くよ。君は落ち着いて。生徒会室 に居ていいから」
「ま、待って!」
生徒会飛び出してすぐにある社会科資料室から出てきた例のヤり…基 アイドル同好会の部員がへらへら笑ってたから生徒会室に居る女子生徒の面倒を頼んだ。絶対に手を出すなって念は押したら、ヤり…アイドル同好会は託児所じゃないって言われたから人質にしてくれって言ったら快諾した。帰ったらオレ絞られる。挿入 られる前に挿入 るか。
井上学院さんは工業科がなんか喧嘩上等!みたいな感じだったから工業科棟のある西口から入った。彩波ちゃん分かったかな?ちゃんと言っておけば良かった。琴野葉さん大丈夫かな。ヤり…アイドル同好会なら多分大丈夫だと思うけど…さすがに貞操観念にポリシーがあるみたいで嫌がる女の子にどうこう…ってのはないはず。視界にだらんとした腕が入って顔を上げると誰か通ったんだなって分かるくらい死屍累々-生きてるけど-って感じで呻き声とか唸り声があっちこっちから聞こえた。誰にやられたのか聞いたらバカみたいに強い女だって言うから彩波ちゃんだ。兵隊の死体-生きてるけど-で出来た花道を辿ったら屋上に着いた。ありがちじゃん。でも誰も居ないって思った瞬間視界に陰みたいなのが飛び込んで来て潜りながら避けた。それが何か確認する間もなくまた脇腹に飛んできて避けきれなかったから前にでんぐり返った。コンクリートめちゃくちゃ痛い。背骨ごりっていったぞ。
「Hey!」
起き上がった途端に靴の裏見えて、防衛本能働いて足首の辺り叩き落とした。慌てて立ち上がって相手を見た。数秒間に色々なことがありすぎて、久々の運動で息切れする。
「ねぇ、ここにバカみたいに強い女の子とイケメンの2人組来なかった?」
オレは井上学院の白ラン着てるサングラスの男を見下ろす。彼は脚を空に向けて回すと飛び起きた。この人の屋根みたいになってたものだから反射的に背中反らした。頭突き喰らうところだった。サングラス男は踊るようなリズムでオレの隙を狙っていた。話通じる人…?
「あの、さ…ここに、オレと同じ制服の子が捕まってるって聞いたんだけど…」
「Let's hip-hop」
キィキィした声でサングラス男は飛び上がった。オレあんまり喧嘩とか慣れてないし、学校間の乱闘排除をスローガンとして掲げた以上暴力はご法度 だからただ除けるしか出来なかった。でも限界がある。屋上入口のアルミのドアが背中に当たって、サングラス男の足が横から入ってくる。だから蹴られる前に先に転んでやった。背後取って掌に付いた砂利を払い落とした。
「あのさ…」
踊るサングラス男はオレ的には彼のアイデンティティともいえるサングラスを外す。洗練された仕草で、なんかモデルとか映画のワンシーンみたいだった。
「気に入ってンだ、これ。壊れたら困ンだよネ」
サングラス外したグラサン男はゆっくりとオレを見上げる。めちゃくちゃ綺麗な顔してた。中性的な感じの。オレには負けるけど。彼は気に入っているらしいサングラスを胸ポケットにしまった。そこオレが叩いたら壊れるじゃん。叩かないけど。
「What’s your name?」
「えっ?あっ、まいねぃむいず愛 尾久山」
外国人なのか?オレは咄嗟に教科書どおりのことを答えた。でも咄嗟過ぎて、まるで制限時間でもあるみたいな心地で発音にこだわることなんて出来なかった。
「尾久山? I don't know 」
グラサン外したサングラス男が喋るたびに口がキラッ、キラッて光った。銀髪にしてもやたらとキラキラしている。
「May I ask your name?」
オレもこの人の流儀に従って聞いてみる。
「は?」
「えっ」
「なんて?」
え?なんで通じないの。間違ってたか?いやいや、こういうのって一纏めにリズムで覚えるんだから間違ってるってことはないはず。
「名前訊いてんの。オレ尾久山。君は?」
「逢沢 :a.k.a(エーケーエー) eyes よろしく」
何、エーケーエーって。also known as。意味は分かるけど自己紹介で付けるやつ聞いたことない。
「ビビったか」
「あ~、逢沢くん?よろしく。ラッパー?」
「NO!フリーダムダンサー」
また逢沢くんとかいうちょっと変な人はダンスするみたいなリズムで構えた。
「喧嘩する気はないんだって!ここに捕まってる子がいるんでしょ?どこにいるの?」
ドス…って音がしてオレの耳の真横に蹴りが飛んだ。
-日風水世-
五十音 生徒が椅子に縛り付けられている。わたしは後ろで手を縛られて、隣には浅海が転がされている。一足遅かった。番長 が出るまでもないらしい。うろうろと当校 の生徒の周りを練り歩いて竹刀を手に打ち、脅しをかけている。
「あのよぉ、ここは女子助 が来るところじゃねぇんだよな」
適当に指を動かせば縄は解けたが下手に動くと目の前の五十音 の生徒か浅海に危害が及ぶだろう。まだ勝機が見えない。竹刀を持った他校生がわたしの目の前にやって来て、縄が解けていることを知れているのではないかといくらか慎重になった。竹刀の先がわたしのスカートの裾を持ち上げる。当校の生徒が目を逸らした。わたしは竹刀を持った他校生を見上げる。今なら行けるだろうか。しかし浅海には3人が付いている。わたしがこの竹刀を持った他校生を相手にしたところで浅海は身動きも取れないまま3人を相手にしなければならなくなる。わたしが下手を打てば間違いなく当校(あの)生徒が危なくなる。どうする?
部屋は静かだった。校庭から健全な声が聞こえた。体育か、部活か。わたしのスカートの裾を引っ掛けた竹刀が持ち上がる。
「やめろ!」
叫び声がした。ぐふっ、と声と鈍い音がした。
「縄解けてんならさっさと逃げろ、クソ女 …!」
浅海を振り返る。床に沈んでいる。どうして明 す。
「浅海、耐えろ」
竹刀の先を掴んで引っ張る。あまり殴りたいものではない。何人も殴ってきたが、気持ち良いものではないし何より痛い。
「stay、stay、stay…」
キィキィした声が入ってきて空気が変わった。
「尾久山…」
「あ、彩波ちゃん!やっと見つけた」
尾久山は白ランにサングラスの妙な男に肩を貸している。
「NO!そいつ等meのsoul mateのbest friendネ」
逢沢さん…逢沢さん…と他校の奴等が呟いた。竹刀の男も頭を下げた。
「尾久山、どうしてここにいる」
「琴野葉さんて分かる?彼女に頼まれて。あの子のお姉さん」
尾久山は妙な身形の男を引き摺ったままわたしの傍にやってきた。
「そのstudentも早く放せ」
竹刀の他校生が当校の生徒の縄を解く。
「あとは適当にやるからさ…、彩波ちゃんは夢旭のことお願い」
普段の少し高い声が低くなって尾久山はわたしの肩を軽く叩くと妙なサングラスの男を抱えたまま当校の生徒のもとに向かった。子供をあやすみたいに喋り掛けている。相手は同じ高校生だと忘れているみたいだ。わたしも立ち上がって浅海の元に行った。
「立てるか」
「余裕だクソ」
鼻血が垂れて口の端にも血が滲んで、シャツまで汚れている。ポケットティッシュを渡しても受け取りはせず、わたしの手から叩き落としてそそくさと帰っていった。尾久山に頼まれている以上浅海を放って置けず後を追おうとした。しかし目の前に小柄な男子生徒が立っていた。
「助けてくださってありがとうございました!」
大きな目と小振りな鼻、さらさらした亜麻色の髪の男児といった感じの生徒だった。
「ああ、怖い思いをさせてすまなかったな」
1人で帰れるだろう。
「荒らしてすまなかった」
浅海を見張っていた井上学院の奴等に短く頭を下げ浅海を追う。拳がただただ痛い。
浅海を駅前で捕まえる。彼はわたしを強く睨んだ。
「すまなかった」
呼んでも応えない背中に謝る。そしてやっと浅海は立ち止まった。
「何が」
「巻き込んでしまった。守れなかった。怪我までさせた」
どこかに行こうとしている浅海を無理矢理に拘束して軟禁し調教といっている間にあの男子生徒は捕まっていた。当校生徒は学校間の乱闘から守るつもりで浅海は今怪我をしている。血を流している。
「っざけんな!」
閑静な住宅街に怒声が響く。浅海は振り向いてわたしの肩を突き飛ばした。
「どんな陰茎 持ってるか知らねぇけど今日見たろ!女はすっこんでろ!」
言い返す言葉もなく、言い返す隙も与えず浅海はまたスラックスのポケットに両手を入れて駅へと歩く。別のホームに行くところをみると彼は帰ってしまうらしかった。
五十音高校 に戻ると門前で藁山学園の男子生徒がきょろきょろと敷地を見ていた。
「何か用か」
楢恒 だ。おそらく浅海に用がある。
「げっ!」
「浅海に用か」
「あんたにゃカンケー無ぇ!」
ばつの悪そうな表情で彼は言った。
「やつは帰った」
敷地 に入ろうとしたわたしを奈良恒は呼び止めた。
「なんか大変なことになってんだろ?」
その声音にはわずかな動揺があった。
「解決した」
「何があったんだ?」
「帰れ。教師が出てきたら面倒だろう」
他校生に言うことは何もない。先に手を出されたからとはいえ井上学院とやり合ってしまった。おそらく楢恒の耳にもすぐ届くだろう。ローファーの靴音をさせながら生徒会室に戻る。
「あっあっあっぁぁあ~」
生徒会室のドアの前から不穏な声が聞こえた。男の声だ。わたしと契った男子生徒の声ではない。
「あっあぁぁイく、イぐ、っあひぃ」
生徒会室で契るのは尾久山くらいだ。まさか先に帰っているのか。マナーとして普段はしていたないが扉をノックする。
「あっあっ、いい、いい…!ぁっあいい!」
ドアを開ける。物音がして応接用のローテーブルセットに女子生徒が縮こまって座っていた。その窓際で男子生徒が腰を突き出して男子生徒と契っている。しかしここにいる3人は誰ひとりとして生徒会役員ではない。
「何をしている?」
見れば分かる。契っている。しかし何故ここで?どういうつもりで?示威的意味合いでもあるのか。そういうことを含めて短く訊ねた。だが答えられることはなく、凸 役をしていた男子生徒はスラックスのファスナーを閉めてわたしの真横を擦り抜けていった。残された凹 役の男子生徒はまだ臀部を晒している。
「生徒会 の愛(うい)ちゃんに彼女(カノジョ)の面倒看るように頼まれてんだよね。目、離せないからここで性欲処理 してたってワケ」
彼は受け入れた箇所から凸役の体液を垂らしていた。気にも留めることなくスラックスを履こうとする。耳にはジャラジャラとピアスや小さなチェーンが付いている。生徒手帳用の顔写真には付いていなかった。
「奥で処理をするといい。身体に障る。留守にして悪かったな」
会長席の脇にある扉を指して案内してから肩身の狭い思いをしている女子生徒の対面に座った。彼女はかなり緊張した様子だった。金縛りにでも遭っているかのように目だけでわたしを捉えた。琴野葉 朱鳥 。名簿と写真でだけなら知っている。だが写真で見るより髪も瞳も綺麗で思わず見惚れてしまった。
「弟さんは無事です。尾久山と帰ってくるか、もう帰宅しているか…」
彼女の大きな目が少し潤んだ。弟にはあまり似ていない。立ち眩みを起こしたように華奢な上体が傾き、隣の座面に手をつく。
「ごめんなさい、ちょっと力が抜けてしまって」
わたしが立ち上がりかけたのをみて彼女は言った。
「保健室に行くか。貧血かも知れない。少し寝ていたほうが…」
「大丈夫、ありがとう。山兎を待ちます」
彼女の声は鈴が鳴るようでずっと聞いていたかった。少し彼女と話しているうちに奥の部屋から男子生徒がやってくる。苔室 雲霧 とかいう生徒だった。最近 発足 したばかりのアイドル同好会の部員だったはずだ。彼は琴野葉さんの隣に座ると彼女の真後ろの背凭れまで腕を伸ばした。舌に嵌ったピアスが光る。
「愛 ちゃん逃げてねぇよなア?」
苔室は首を竦めて舐めるようにわたしを見上げた。
「すぐ帰ってくるはずだ」
琴野葉さんは隣の男子生徒を不審げに見て少しでも遠ざかろうとしていた。
「愛 ちゃん帰って来なかったらあんたに雄膣 ガン堀りしてもらうからナ」
彼は何の躊躇いも恥じらいもなく卑猥な単語を吐く。琴野葉さんの白い顔が一瞬で赤くなった。
「尾久山は来る」
来ないほうがいいかも知れないが。
-雨土歌-
ダンスバトルであっちこっちも筋肉痛だった。隣の子供みたいな男子高校生はオレに彩波ちゃんのことを訊きまくってきた。付き合ってるのかと思ったらしい。いや、彩波ちゃんはちょっと…文句の付けようがない美少女だけどちょっと、完璧過ぎる子はタイプじゃないっていうか。いや、タイプじゃないかタイプかといえばタイプじゃないけどアリかナシかでいえば全然アリ。でもなんていうか、そういうのじゃなくてだな。
「じゃあ僕、仁王先輩に告白してもいいですか!」
琴野葉弟くんは大きな目をキラキラさせている。
「それは、オレがあれこれ言うことじゃないね…」
電車に揺られながら五十音に帰る。生徒会の前に来てから嫌なことを思い出した。オレ、生徒会室 出る前に何か約束しなかったか?この子だけ預けて帰るか?
「姉さん!」
オレの前で生徒会室のドアは開かれる。
「尾久山先輩に送ってもらいました」
隣の男子生徒 が僕を追い抜いて無邪気に室内 へ入り込んでいく。
「来たか、尾久山。浅海はもう帰-」
「愛 ちゃァん、約束、分かってンよなア?」
彩波ちゃんの言葉を遮ってヤ…ヤりドル…違ったアイドル同好会のなんとかってヤツがオレの肩を組んできた。あ~やだやだ。いきなり即興ダンスバトル仕掛けられたりセックスしろって迫られたり。
「はいはい。彼女守ってくれてありがとな。で、どこで?」
「俺 ちゃんなア、他人 に見られてヤんのが大好 きなんだよぉ。社会科資料室」
こてんって首を倒しても全然可愛くない。舌ピ光ってるし。社会科資料室はヤリドル愛好会の部室(ホーム)。正直ノり気じゃないけど仕方ない。問題は勃つかどうか。ここばっかりはオレでも制御出来ない。
「尾久山」
「待って、彩波ちゃんが呼んでる。なぁに?彩波ちゃん」
連行されようってところで彩波ちゃんがオレを呼ぶもんだから重い襟巻きを顎で邪険にしながら振り向いた。
「大変だったら代わるが」
「大丈夫!」
オレはカッコつけて手を振って、自ら隣の香水臭い素行不良を社会科資料室へ引き摺った。
「彩波ちゅわんにガン堀られるのも捨て難ェんだよなア。病み付き巨根ってホントかア?」
「いや、オレは知らないよ」
短い廊下を歩いて完全オレの敵地 である社会科資料室に入る。色んな視線が僕に向く。勘弁してくれ、アイドルヤリ好会。違う、ヤリドル愛好会。見た目はみんなイケメン美男可愛い系揃い。隣のやつも近くで見れば顔はいい。ただ耳のジャラジャラと舌ピがなんかウザい。
「さ、さ、ヤろうぜ。It's show time!!」
「その喋り方やめて…疲れた」
逢沢エーケーエーeyesとかいう、自称ふりぃだむダンサーにめちゃくちゃ気に入られてアドレス交換までしてしまった。オレは腰も脹脛も痛いよ。
クロムとかいうこの人もなんかa.k.aとか言い出しそうな名前のやつがテーブルに乗って尻を突き出す。これは浅海、これは浅海、これは浅海。目を瞑ってファスナーを下ろす。部屋には沢山のグラビアアイドルのポスターが貼ってあったけどどれもビールを片手に振り返ったり、カメラに向かってジョッキを差し出したり、ラーメン屋とか居酒屋にあるようなものだった。
「さ、挿れろ!生でいいから」
「嫌だよ。性病 持ってそう」
ゴム携帯していてよかった。持つべきものは金堂 ゴム。このCMに間違いはなかった。首から掛けて持っておくべきだよ。ちゃんと公約も「ヤるなら付けろ、生ならするな」「性交するならゴム付けろ」にすべきだった。
「持ってねエわ!」
「中出しは勘弁な」
これは浅海、これは浅海、これは浅海。そんなわけない。まだオレの聖剣は勃ってない。横から薄いピンクともオレンジともいえない蒲鉾みたいな柔らかい物渡されてオレは流れで受け取ってしまう。誰だよ、渡したの。
「使う、ヨロシ」
黒髪に三つ編みの男が拳と掌をぶつけてにやっと笑った。
「使い方分からない、ヨロシ。ワタシ、教える。チンコ、出す。ソレ、被せる。シコシコ、動かす。チンコ、気持ち良い。分かった?分からない?」
顔はかなりイケメンだった。でも喋ると顔がイケメンとかイケメンじゃないとかそんな話はどうでも良くなる。もうすべてがどうでもよくなる。気も力も抜ける。
「可愛い、オマエ。抱き締める、ヨロシね?」
黒髪の三つ編み男はオレの背中に腕を回した。視界が暗くなる。ギュッと抱き締められると不思議と身体がフィットする感じがあった。
「おい!そいつァ俺 ちゃんの獲物 だ!」
尻丸出しのクロムとかいうやつが怒った。穴 晒して言われてもな。承認に賛成するんじゃなかった、こんな部活。
「参考までに陰茎のサイズと太さを測らせていただきますね。部内でも部外でも抱かれたい人アンケートで2位なんです、尾久山クン」
シャーという音がして余所見をすれば巻尺を持ってる眼鏡がいた。こいつだ、山川。こいつがオレにアイドル同好会の説明をしに来た男だ。完全に言い包められた。完全に騙された。彩波ちゃんに承認の賛成をしちゃった。
「ちょ、ちょ、…」
申請書には6人いたはずだ。ここからは遠いソファの背凭れに乗ってる陰キャっぽいのとそこに座ってる王様みたいなのと壁際に立ってる赤メッシュ金髪。6人全員いる。もしかしてこいつら全員相手するの、オレ?助けて、彩波ちゃん…
「勃たねエのか、みっともねエなア」
クロムとかいう原子番号24番の元素みたいな名前してるやつは尻を向けていたのに回転してオレのほうに頭を向けた。黒いマニキュアの塗られた手がオレの特殊警棒を触った。
「コいてやる。おら、気持ち良いだろォ?」
「…っ、」
下品だ。手付きも下品だ。浅海とは全然違う。オレのはすぐ大きくなった。さすがヤりドル愛好会。手コキ上手い。逆手にされるとクセのある快感を駆け抜けた。感じると顔隠す癖が出てオレは片手で目元覆っていた。
「イかせないでくださいね、苔室 クン。尾久山クンのペニスのサイズを測りたいので」
「ふん。ついでに型も取るか?」
腕組みして踏ん反り返ってるヤツが口を開いた。名前忘れた。多分彩波ちゃんなら一発で分かる。全生徒の名前と顔把握してるもん。
「テメェのド淫乱な雄膣恋人 がディルドオナニーするのに使うだけだろ」
クロムとかいうクロミウムみたいな名前をしたやつが鼻で嗤った。五十音高校(いそね)終わってるな。
「そ、そんな訳、な、無いじゃないですか!」
「はん、言うじゃねぇか。そいつにディルドなんか要らねぇよ。オレがいつでも相手してやる。ディルドは生ちんぽには勝てねぇ」
部内でごたごたがあることは分かったけど手コキされていてよく聞き取れはしなかった。
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