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第5話

-雨土歌-  体育館には誰もいなかった。倉庫のほうから騒がしい声が聞こえて夢旭が居るんじゃないかと顔を出した。暗くてカビ臭くてタバコの火が光っていた。タバコって高校生いいんだっけ?まぁ、色々な事情の高校生がいるからね。でも一律で言えるのは制服のまま高校の敷地の屋内で吸うなってこと。  後ろから目隠しされて、捕まえられて、口の中に液体入れられた。そこからの記憶があんまりない。目が覚めて寝ていたことに気付く。とにかく頭が痛くて喉が焼ける感じ。お洒落なシフォンケーキの切り口吸った時の苦さが鼻の奥に残ってる。お酒だ、多分。あんまり考えてられなかった。目隠しされてるから寝ちゃいそう。何しに来たのか忘れて、胃の辺りがひりひりする。へらへら笑っちゃう。身体中何か変なのにシアワセな感じがした。耳にイヤホン嵌ってて、よく知らない音楽がずっとジャカジャカ鳴ったり、シャウトやデスボイスが響いた、軽快なEDMがチャンカチャンカうるさかった。アイドルの曲も入っているらしい。オレは固い椅子か何かに縛られているらしくて視界は閉ざされて、聴覚はチャカポコ音楽が鳴っていて両手足は動かなくて、頭もくらくらした。鼻もシフォンケーキを吸った時の風味で力も入らない。頭がおかしくなりそうだ。胃がチリチリして喉がカラカラする。助けて彩波ちゃん。何言ってんの、彼女蔑ろにしたのオレじゃん。王様からも言われてたくせにさ。 「夢旭~」  反応は有っても無くてもイヤホンから聞こえる音楽で正直聞こえないから爆音でもない限り分からない。誰の音楽プレーヤーだよって思うくらいジャンルを網羅している。 「夢旭~」  頭くらくらして変な感じがした。大体のことどうでも良く感じられる。夢旭のこと平気で呼べちゃうくらい。でもオレに気付いても、夢旭はオレのこと置いて行っちゃうのかな。 「夢旭~」  頭がくらくらする。これ以上言うなよって思うのにまだ口は動く。 「まだ好きだぁ~、まだ好きだぁ~夢旭~」  舌が上手く動かなくて口を動かすのも段々と怠くなる。気持ち悪い。何か飲みたい。酒以外で。甘酒でもいいから。頭がくらくらする。喉がカラカラだ。息するたびに除菌ティッシュみたいな匂いがした。 「オレのマイ激甘(スウィスウィ)ハ-」  足に大きな振動を感じた。身体がぐらぐらする。浮いたような感じもしたけど肩を強く打った。首も反動を受けて頭の横ぶつけた。痛いんだけど、麻痺してる感じがあった。呼吸のたびに除菌ティッシュとかシフォンケーキの風味がした。眠くなる。胃が気持ち悪い。喉がカラカラだ。何か飲みたい。  髪を引っ張られて頭が持ち上がる。口の中に何か突っ込まれてすぐ甘くなった。オレンジか、ブドウ。平たいほうの歯にいいエキス配合のじゃなくて、不健康まっしぐらの丸いほうの棒キャンディだった。誰かが棒を触るから歯にカチカチ飴玉が当たった。 「ちょっと黙ってて?」  ロックバンドの歌に混ざって外部の声が聞こえた。女の声にも聞こえたし、ちょっと高い男の声にも聞こえた。また飴玉をずこずこ出し入れされる。砂糖の塊が歯に当たる。砂糖の味でアルコールの風味は少し誤魔化しが利いた。でもまだ頭はくらくらで棒付きキャンディを転がしながら目を閉じる。外の音を遮断するほどの音量でも猛烈な眠気に抗えなかった。本当にオレ、何しに来たんだろうって思いながら、まぁいっか!なんて思いもあって、とにかく身体も頭も変な感じがした。ごめん、寝る、オレ。彩波ちゃん…王様…夢旭。  酒臭い中で目が覚めてまだ喉はかなり乾燥してるらしくカラカラで痛みすらあった。ただ目隠しもイヤホンも取れて、バレーボールが嵌ってる高い天井が見えた。体育館だ。でも誰もいない。オレは椅子に縛り付けられたままでじたばた動いた。でも縄は腕や脚に食い込むばかりだった。体育館覗きに来た体育着の小柄な男子を呼んで縄を解いてもらう。かなり頑丈な縄みたいですぐには外れなかった。枝切りばさみ持ってきてもらってオレはやっと解放されたけどとにかく喉が渇いて、胃が変で、真っ直ぐに歩けなかった。視界も固定されたみたいにひとつのものしか見られず、暗闇の中を進むみたいに左右にふらふらした。夢旭を探しに行く。今なら言えそうな気がする。マイスウィートハニー。オレの別れても好きな人。まだ一緒に居てくれと。大好きだと。あれから何人も男も女も抱いてるけどオレは夢旭がいいと。どこにいるの、(あーし)のマイ(ベリー)激甘(スウィスウィ)ハニー。呼吸するたびに口と鼻に除菌シート入れてるんじゃないかと思うほど臭かった。居酒屋でもこんな匂いしない。酔った時の叔父さんと同じかそれ以上の匂い。夢旭を探したいのに自由に動かない。体育館を出ると納屋が見えて、深く考えもせず、どこかしらに夢旭がいるだろう、なんてことも考えずただ目に入ったそこに夢旭がいる気がした。夢旭を探していたのかも分からない。ただ何かしら暗く狭そうなところを探していた。そこに夢旭がいると思い込んでいたから。 「夢旭~。どこにいるんだ?夢旭…」  オレは叫んだ。お前に絶交を告げられて枕を濡らした夜を思い出すよ。パンツも濡らした。濡らしたっていうか汚したっていうか。 「夢旭…どこだ…」  片手で輪っか作ってお前を馳せない夜はなかったよ、1日2日は正直あったけど。  本音が止まらなくなってオレはくらくらする頭を振った。早く夢旭を連れ帰って、何事もなかったように彩波ちゃんのところに戻る。彼女のことは王様に頼んだから、あんな別れ方をしても王様なら多分、やってくれる。 「あっちだよ。あっちに行った」  耳がわんわん鳴ってる。子供の声が聞こえた。もしかしてオレ、変な病気にか罹って死にかけてる?身体から異臭放つタイプの。生臭いどころかアルコール臭放って。 「指巣(さしす)川に行ったよ。なんか約束があるんだって」  指巣川…近くにあるのは世相(せそ)川。オレは目線を下にずらす。大きめなジャージを着たショートカットの女子小学生。どこかで会った気がする。 「おにぃちゃんお(しゃけ)(くちゃ)い」 「指巣川に行ったのって、おにぃちゃんくらいカッコいいお兄さん?」 「うん…」  夢旭だな。夢旭だよ。間違いないね。オレはふらふらしながら江尾工業を出た。ここから五十音もこの状態じゃ正直キツい。指巣川はその向こうにある。走れるか?ふらふらだ。頭はくらくら。でも行くしかなくないか?惚れた弱味ってのはそんな甘いものじゃないんだよな。行けるとか行けないとか、行くとか行かないとか行きたいとかじゃなくて、行っちゃうんだよな。頭は楽しようぜ、五十音にもだらだら戻ろうぜって言ってんのにまだ残ってるチャレンジ精神みたいなものがオレの尻を叩く。 -日風水世-  殖蓮(うえはす)はわたしを見下ろして腕を組み直した。 「仲間割れは解決しなかったようだな」  意味が分からず殖蓮が顎で差した方向を振り返る。ぼろぼろになっている浅海が土手の上を引き摺るように歩かされていた。 「浅海っ!」 「待て。これは五十音の計画か?自分でお前が来る、あいつ等には手を出すなと言っておきながら、やつはうちに手を出した。これの意味が分かるか」 「…五十音は江尾工業に宣戦布告した…、いや、急襲した」 「そうだ。もう抗争(いくさ)は避けられない」  土手を浅海を引き連れた輩が降りてくる。腫れた目蓋がわたしを見ていた。 「それからもう1人、江尾工(うち)他校生(ネズミ)が入り込んでいるという情報(しらせ)が入っている」  表情ひとつ変えず殖蓮はわたしを冷たく射抜く。尾久山だ、おそらく。 「そいつは尾久山というらしい。本来なら今日ここへ来るよう要求した相手だ。お前は江尾工(うち)に二度と関わるなと言い付けた。それを守り、尾久山ではなくお前が来ることを呑んだ。何故やつは江尾工にいる」  浅海が近付くたびに大きくなる激しい息遣いにわたしは冷静でいられなくなった。骨が折れてるのではないか、肺や内臓に刺さってはいないかと。 「五十音は江尾工と抗争なんて出来ない…」 「自分がどれだけ都合の良いことを言っているのか分かるか?」  傍に浅海が放り投げられる。荒い息遣いは尋常な様子ではなかった。顔も赤い。熱がある?すぐに病院に連れて行くべきだ。もうAのような思いはしたくない。 「浅海…」 「話はまだ終わっていない。ここにそいつがいる。それだけでお前 乃至(ないし)五十音は不義を働いていることを忘れるな」  両手足は縛られているわけでもなかったが浅海はアスファルトに固められてた高水敷に倒れたまま起き上がる様子がなかった。重い熱病のように短い間隔で呼吸している。 「それなら、今ここで開幕しよう。五十音の代表としてわたしは負けを認める。もう五十音には、」  尾久山に、怒られる。Aの恋人のように。 「通用するか?」 「わたしを殴れ。ボコボコにしろ。女とか男とかそんなものはどうでもいい」  尾久山に見限られる。浅海がAのようになる。五十音を巻き込むなど出来ない。これ以外に案はなかった。 「五十音高校の代表(アタマ)としてわたしを殴れ」  殖蓮に一歩近付く。眉ひとつ動かさなかった。 「断る」 「五十音は抗争しない」 「お前がしなくても、尾久山とそいつはする気のようだ。うちはもうそいつに17人やられてる。お前等五十音に手を出していい名分はもうある。ただ江尾工業の流儀として、挨拶をしに来ただけだ」  殖蓮は腕組みを解いて法面(のりめん)を上がっていった。わたしは浅海の脇に膝を着き、彼のブレザーを開いた。シャツのボタンも開けていく。少し浅黒い肌が汗ばんでいる。しっとりした手がわたしの手を嫌がった。もう一度手を伸ばすと握られてから投げられる。 「…っぅ、」  苦しげに呻めき首に少し髪が張り付いたいる。 「どこか折れているかも知れない」 「放って……おけ、よ……っ」  潤んだ目がわたしを見上げた。やはり熱があるのかも知れない。抱えられそうではあるが、どこを怪我しているのか分からなかった。 「触るぞ」 「よ、……せ、っ…ッぁぅ」  胸元に触れる。浅海は背を反らした。まず胸元らしい。抱えて帰れない。救急車が要る。スマートフォンを出した。 「とっとと……帰れ…よっ…」  かなり痛むのか浅海は身悶えた。わたしも見ていられなかった。救急車を呼ぶ番号を押してコールする直前に後ろから伸びてきた手にスマートフォンを奪われる。 「預かっておく」  大きな影だった。Aと見紛う。天地だ。わたしのスマートフォンは天地のスラックスに吸い込まれていった。 「どうしてここに…」 「ふん、紆余曲折あってな」  天地はわたしの奥に横たわる浅海を興味深そうに見ていた。 「…っ見てんじゃ……ねぇっ…見る、な…っ」 「おうおう。怖いねぇ。じゃあな。端末(これ)は取りに来るこった」 「ちょっと待って。それがないと…浅海は怪我していて……救急車呼べないから…」  軽快に去って行こうとする大きな後姿を呼び止める。浅海の呼吸に混じったような呻くような声に焦る。 「へぇ、あれだけ生徒喰い散らしときながら(うぶ)なこって。怪我じゃねぇよ、安心しな」  彼は普段と変わらない不遜な態度で振り向くと底意地の悪さを窺わせる笑みを浮かべた。 「とりあえず救急車は要らねぇ。じゃ、(オレ)様は帰るぜ。尾久山の僕ちゃんに味良(よろし)くな」  天地はもう振り向きそうになかった。わたしはまた浅海の傍に寄る。彼は浅く息をして立ち上がろうとしなかった。苦しそうな表情をしているくせわたしを視界に入れると顔を険しくする。 「歩けるか」 「…っ当たり前だ…ろっ…!」  彼は粗めに固められたアスファルトに肘を着いて上体を起こそうと試みたが、起き上がることも困難な様子だった。 「肩を貸す」  傍に寄る。腕を掴んで肩に回させた。浅海の身体は熱く、全身汗ばんでいる。艶っぽい雰囲気があって彼のほうを見られなかった。負傷している者に対して不埒な情感ばかり覚えてしまう。天端(てんば)まで引き上げ、そこにある古びた木のピクニックベンチに座らせる。形の歪んだぬいぐるみのように彼はテーブルへ倒れてしまう。力強く閉ざされた目蓋と長い睫毛、顰められた眉。以前仕置きといって彼の身体を甚振った時とよく似た雰囲気にわたしの顔も火照って顔を押さえた。 「まだ少し歩く。行けそうか」  行けなそうなら抱えていく。50kg後半から重く見積もっても70kgだろう。それならば抱えられないこともない。 「放っとけ……って……」 「歩けないなら抱き上げるか背負うかするが」  浅海は舌打ちしてから立ち上がる。膝が震えているため無理矢理肩を組ませた。 「江尾工とは…どうなった……?」 「お前には関係のないことだ」  おそらくまた江尾工業に呼び出されることになる。その時は本当に抗争になるかも知れない。けれど五十音高校は巻き込まない。せめてわたし1人でどうにか。 「関係……ねぇ、っか……俺は、五十音じゃねぇってのかよ!」  汗ばんだ手に突き飛ばされる。浅海は反動で左右に揺れていた。そのまま転びはしないかと心配になった。 「あんたは……ッただの独裁者だ…っ!」  喘息のような息をしながら浅海はふらふらと歩いた。橋の真ん中で反対から来た五十音高校の男子生徒と合流するのを影絵のように見ていた。 「独裁者…」  呟いていた。わたしは独裁者だったのか。突き飛ばされた二の腕にまだ圧迫感が残っている。 「彩波ちゃん」  浮腫んだ感じのある尾久山がわたしの前に立っていた。目付きが変だった。声の調子も聞き慣れたものではない。 「江尾工に、行ったのか…」  頷かないでくれと願うのと同時に彼は肯いた。 「…そうか」  尾久山は病的なほど真っ白い顔をしてぼんやりしていた。無防備で危うげな空気感にわたしはさらに踏み込んだ。 「わたしは独裁者か」  尾久山の目付きは眠そうだった。前のめりのような歩き方で、浅海とはまた違うがそこに立っているだけでも不安定な感じがあった。 「そんなことないよ」  情けない。情けなくて仕方がない。尾久山がまだそう言ってくれるからには、わたしはまだやる。 -雨土歌-  彩波ちゃんは蒼白な顔をしていた。独裁者だなんてオレは思ったことない。 「今日はもう帰りなよ。お疲れ様」 「五十音に帰るよ。お前は?尾久山…少し具合が悪そうだ」  青白い顔をしてる彩波ちゃんに言われちゃった。まだ息は酒臭い。嗅がれたくないな。 「肩を貸そう。転ぶのは痛い」  彩波ちゃんがオレの腕を掴んで肩を貸してくれた。バレる。酒飲まされたこと。彩波ちゃんの肩は細いのにオレを力強く支える。 「浅海とは話せたのか」  足の裏はもう板になったみたいに硬くて痛かった。やっと夢旭に会っても、夢旭はオレから顔を背けるばかりでオレは機嫌窺うみたいにへらへら笑うことしか出来なかった。彩波ちゃんを裏切ってまでやったことはただ酒飲まされて寝ていただけ。夢旭はぼろぼろで、でもオレの助けなんて必要としてない。 「…うん」 「なら良かった」  彩波ちゃんはオレを引っ張るように歩く。ひとりでは縺れかけていた足が彼女の力強さに釣られる。怒らないの、彩波ちゃん。怒らないの?オレのこと。  外から見る五十音高校は運動部とか吹奏楽部の音で華やかな感じがあった。江尾工業高校と違って国道のうるささばかりじゃない。 「おい」  門の前に藁山学園の生徒(ひと)が来ていた。夢旭に会いに来たのかな。 「さっき浅海が来たけどよ、何かあったのか!」  オレが口を開く前に彩波ちゃんが彼を向いた。白い輪郭が綺麗だった。 「藁山学園には他校生は来ていないのか」 「…どういうことだよ?」 「いや、深い意味はない。藁山学園ののためにも、もう五十音高校には来るな。浅海にも会わせない」  彩波ちゃんはオレと喋る時より声音を落として言い聞かせるよりゆっくり話した。他校生だからかな。こんな冷たい人だっけ?って思うくらい鋭さを含んでいる。藁山学園の生徒はオレの方を見た。でも彼が口を開く前に彩波ちゃんはオレを引っ張って歩かせた。 「藁学と手を組んでいることを井上学院が疑って、この前のことは起こったらしい」  門から少し離れて彩波ちゃんは言った。 「今回は一応の挨拶らしい。尾久山は身の回に気を付けて欲しい…と言いたいところだが」  彩波ちゃんの言葉が切れた。ずっと流れていくアスファルトを見ていたけど真横の彼女を見る。 「尾久山っ」  ブレザーの下にピンクのパーカー着てる知り合いは1人しかいない。雲霧(くろむ)が階段を駆け降りてくるところだった。彩波ちゃんとオレとの間に割って入ってオレを支えてくれる。身長差が少し埋まって正直歩きづらい。 「なんだオメェ。怪我してンのかと思ったら酔っ払いかよオ?」  耳のチャラチャラしたピアスの音まで聞こえた。香水の匂いにちょっと気持ち悪くなる。ダイレクトな人工的な匂いが今はキツい。胃に響く。彩波ちゃんのシャンプーとか洗剤の薄まった匂いくらいがちょうど。 「苔室(こけむろ)、すまないが尾久山を頼んだ」 「会長ちゃアん、身内(ウチ)の王様が生徒会室に行ってるぜエ。バックれてやんなア」 「ありがとう」  彩波ちゃんは先に行っちゃうからちょっとパンツ見えそうだったし雲霧は見ようとしていて、他の女子なら膝より少し高い丈の子多いから多分見えてた。長いこと一緒に居るから見たことあるけど彩波ちゃんはスパッツ履いてるよ。絶対教えないけど。 「何があったんだア?なんでテメェは酒臭エ?脱童貞の祝酒でもしたってかア?」 「元々童貞じゃないから」  意外にも甲斐甲斐しく雲霧は一歩一歩段差を上がるのを待ってくれた。 「ンで?」 「ああ、盛られた。彩波ちゃんには言わないでくれよ。ただでさえ彩波ちゃんを裏切るような真似したんだ。負担になりたくない」  社会科資料室のそこそこ立派なソファーにオレは運ばれた。雲霧は飲みかけの水飲ませてくれた。口移しで。でも対面のソファーに夢旭がぐったりしていてオレは気が気じゃなかった。 「なんで夢旭が、いるの。ここに…」  手当てはしてあった。鼻にティッシュ入ってるし目蓋にガーゼ当ててある。頭にはおしぼり乗ってた。 「王様が土産に持って帰ってきたぞ。起きたら喰う」 「だ、ダメだっ!」  オレは前にのめった。くらくらする。オレも倒れかけた。酒弱いんだ、オレ。それとも飲まされたのが強過ぎた? 「じゃア、テメェが代わりになるんだなア?」  頬っぺた両側押さえられていきなりキスされる。舌ピが口の中に入って冷たかった。 「ちょ…っ、」  夢旭起きたらヤバくない?まだくらくらして少し痛む頭でもそれくらいのことは考えられた。キスでも頭がくらくらする。舌ピの感触が絡ませる感じを生々しくさせた。ただでさえ力が入らないのに上手過ぎて座ってられなかった。 「っ、」  夢旭が起きたら拙い。口の自由奪われて、股間の辺りがもぞもぞすると思ったら脚が重くなった。下半身が怠くなる。触られて撫でられて揉まれてるのに勃たなかった。勃たないからごめんなってところで「…んっ」って夢旭の色っぽい声が漏れてちょっと反応してからはもう簡単に元気を取り戻した。前髪を後ろにやられながら雲霧をカチャカチャとベルトを外してオレに跨る。こいつが少しずつ下降していくとオレのあそこはグッと締められながら熱くなった。 「っ…すげエ……相性抜群(ジャストフィット)……っうァぁ…」  濡れてないから動かれると少し軋んだ感じがあった。痛くないのか、それも気持ち良いのか雲霧は腰を上げてはまた急激に下降する。 「ぅっァあ…この味がよオ……忘れられなかった……ずエ…ッァァっ」  悦いトコロに当たったらしくて雲霧の細い腰ががくがく動いた。夢旭がすぐ傍にいるのに目の前の快感を本能は無視させてくれなくてオレは雲霧の腰を掴むと奥まで突き上げた。 「アアっ…!」  締まるし引き絞られるしでオレは夢中になって腰を振る。少し首を傾けると夢旭が赤い顔をして無防備な姿を晒していた。オレとお愉しみした時に見せる姿。興奮する。でも冷たい手がオレの目元を覆った。 「今は…っ(おい)ちゃんと……遊べ、よオ…っ?」  ゴムボールみたいに雲霧はオレの股座で弾んだ。 「アっアッ、当たる……っ、すげエ、イイ、っ!ちんこ、気持ちぃイっ、!」  雲霧の腰掴んでた手がやつの乳首まで運ばれる。指でピアス付いてる乳首を押させられた。雲霧は背中を(しな)らせた。ソファーから落ちないように片手で抱え込む。 「アああア!ピアス、引け、…!っ、ピアス引っ張ってエっ!、っ」  そこが何かしらのスイッチみたいに乳首挟んでるリングピアスをおそるおそる引っ張ってみる。 「アアアッイく、尾久山ア、!」  ぎゅうぎゅうに締められてオレもイきかけた。がくんがくんに暴れる身体がソファーでしてるってことを忘れているみたいで危なかった。抱き抱えて密着する。うねるナカがとんでもなくてオレもさらに奥に進もうとした。 「バカッ!バ、カ!イって…(おい)ちゃ、アッ、イっ……!」  聞いてられずに生々しく抽送(ピストン)した。もう中でイくことしか考えられなかった。ゴムしてないって思い出したのにそれは不安要素ではなく、中出し出来るってことに変換されて雲霧の腰を股間に押し付ける。 「アアアッあっ、んぐぐっ!」  中で射精が始まった。雲霧の肩越しで夢旭の赤い顔がオレを見下ろしていても痙攣してるナカが気持ち良過ぎた。

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