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第6話

再び隣に立つ人に目を向けると、彼は穏やかな笑みを向けていた。 「ここはどこだ?」 自分が出した声は先ほどよりも掠れていた。その声を聞いた男がコップを差し出してきたので、素直に中の水を飲み干すと、漸く自分の喉が乾いていた事に気付いた。 「ここはね、君がいた所からだいぶ離れた所にある病院だよ。僕はここに派遣された医者のブラウ。君の名前を聞いてもいいかな?」 ブラウは微笑みと似た、とても落ち着きのある声で話す。 ここがこんなにも静かなのは、あの戦地から離れているせいなのか。 緊張した静かさとは違う、穏やかな気配に知らず知らずのうちに入っていた力が抜けていく。 そして、気怠く首を振った。 「どうかした?僕には名前を教えたくない?」 またしても、首を振る。 「ない」 短い返答に訝しげな顔をするブラウ。 教えたくないわけじゃない。教えるものがないのだ。親も知らない自分には名前と言うものを付けられたことがない。 「もしかして、名前がないのかい?今まではなんて呼ばれてたの?」 「…お前とか、おいとか、強いて言うならリーダー」 リーダーは、自分が1つの班を持つようになってから呼ばれるようになった。 それまでは、特に呼ばれる名前などなかった。 俺の返答にブラウは、困ったなと小さく呟いた。

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