6 / 40
第6話
再び隣に立つ人に目を向けると、彼は穏やかな笑みを向けていた。
「ここはどこだ?」
自分が出した声は先ほどよりも掠れていた。その声を聞いた男がコップを差し出してきたので、素直に中の水を飲み干すと、漸く自分の喉が乾いていた事に気付いた。
「ここはね、君がいた所からだいぶ離れた所にある病院だよ。僕はここに派遣された医者のブラウ。君の名前を聞いてもいいかな?」
ブラウは微笑みと似た、とても落ち着きのある声で話す。
ここがこんなにも静かなのは、あの戦地から離れているせいなのか。
緊張した静かさとは違う、穏やかな気配に知らず知らずのうちに入っていた力が抜けていく。
そして、気怠く首を振った。
「どうかした?僕には名前を教えたくない?」
またしても、首を振る。
「ない」
短い返答に訝しげな顔をするブラウ。
教えたくないわけじゃない。教えるものがないのだ。親も知らない自分には名前と言うものを付けられたことがない。
「もしかして、名前がないのかい?今まではなんて呼ばれてたの?」
「…お前とか、おいとか、強いて言うならリーダー」
リーダーは、自分が1つの班を持つようになってから呼ばれるようになった。
それまでは、特に呼ばれる名前などなかった。
俺の返答にブラウは、困ったなと小さく呟いた。
ともだちにシェアしよう!