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第8話 sideブラウ
今日も朝から大忙しだった。患者は途絶えることはないので、息つく暇もない。それでもやっと、休憩することができた。何人かの同僚と一緒に使っている休憩室で、熱いコーヒーを飲む。この時間が至福だ。
そこに、雑な音を立てて、同僚が入ってきた。
「おつかれ、ディット」
「ああ」
気だるげに椅子に座ったディットにコーヒーを差し出すと、小さく礼を言われた。
ふと、今日目覚めた少年の事を思い出す。寝起きに瞳を覗き込んできて、きれいと言い出す、少し面白い少年だった。
「なぁ、ディット。この間運ばれてきた少年居ただろ?彼がさっき目を覚ましたんだ」
怪訝そうな顔でこちらを見たディットは、興味なさげに頷いた。
「それで、彼の名前を聞いたんだけど、ないって言うんだ。だからさ、名前を付けてあげようと思って。どんな名前がいいと思う?」
「なんでもいいだろ。適当にポチとでもつけとけ」
酷くぞんざいな様子で返してきた同僚に、ちょっとムッとする。しかし、彼の態度はいつものことと気にしないことにした。
「そんな名前じゃかわいそうだろ。もっと真剣に考えてくれよ」
一瞬肩をすくめた彼は、コーヒーのカップに口をつけて、長い溜息を吐きだす。そして、白衣の胸ポケットから煙草を取り出すと、火をつけた。
医者なのに、煙草とは不養生なとも最初は思っていたが、今では見慣れた光景となった。
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