10 / 40

第10話

熱い。近くで家が燃えている。肉の焼ける焦げくさい臭いもする。高いのに重みのある銃の音。泣き叫ぶ女の声。殺してと喚く誰か。 ―コロシテ、コロシテ、コロシテ、コロセ、コロセ 「…ぃ、お……、て…し……、起きて!!」 はっと目を覚ます。全身汗まみれで、動悸が止まらない。息も絶え絶えに視線を巡らすと、先程と変わらない薄汚れた天井と、青い瞳が映った。 「大丈夫かい?酷くうなされてたから起こしちゃったよ」 心配そうに覗き込むブラウに一つ頷いてから再び目を閉じて、呼吸を落ち着かせる。 ここは戦場じゃないんだ、落ち着けと言い聞かせて深呼吸をする。 徐々に呼吸が落ち着いてきたので、また目を開ける。 柔らかく微笑んだブラウにまた一つ頷き返す。 「もう、大丈夫そうだね。ちょっと検査をさせてね。…うん、大丈夫ではないけど、変化はないから問題なしっと」 さらさらと手元にあった紙に何かを書き込んでいるのをぼーっと見つめる。 夢なんて見たのはいつぶりだろうか。まだ、耳元で誰かが叫んでいる気がする。 「君にいい報告があるんだ!」 弾んだ声で言うブラウを見ると、満面の笑みであどけなく笑っている。 「君の名前を考えてみたんだ。君のこれからの名前は、アル。アフマルから取って、アルってどうかな?同僚のディットって人と考えたんだけど。」 アフマル、赤、アル。 とても似合いだと、他人事のように思った。赤からは逃げられない。

ともだちにシェアしよう!