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第19話 sideディット
「…っ!ああ、あ…あああああああああああああああああああ」
言葉にならない悲鳴を上げて、無くなった足を見つめるこの子供に、自分ができることは何かあるのだろうか。
俺とこの子の生きてきた世界は、全く違う。戦争を知らないまま大人になった自分は、この子の悲しみのほんの少しも分かち合うことは出来ない。
漆黒の髪に手を乗せ、かける言葉もなく、傍に立っている事しかできなかった。
声も失くし、ただ茫然と、シーツを見つめていたアルは、そのまま意識を失った。
傾ぐ体を支えながら、ゆっくりとベットに戻してやる。
大人だったらいいという訳ではないが、やはり子供には、こんな酷な経験はしてほしくない。戦争というものが、この子供たちの未来を奪っていった。そう考えて、やるせない気持ちになるが、俺に出来ることは、一日でも寿命を長くしてやることしかなかった。
アルは、怪我が治ったら、今までの患者と同じように、戦場に戻ってしまうのだろうか。左足を失くした体で、何日戦場で生きていけるのだろうか。戦場しか知らずに、光に怯え、闇に安心するような、そんな生活以外を知ることはあるのだろうか。
眉間に皺をよせ、苦しそうに眠るアルの髪を梳いてやると、心なしか、表情が柔らかくなった気がした。
「…医者に出来る事は、ほんの少ししかない、か。ほんの少しどころか、一個もみあたらねぇよ。」
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