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第21話

ゆっくりと、彼が手を持ち上げて、俺の方を指す。その指先に従うように、目線を下げる。 頭の片隅で、警鐘が鳴っていた。見てはいけない気がした。それでも、体は言う事を聞かずに、勝手に動く。 俺の体の下には、無数の死体が転がっていた。 「っ!!」 青白い顔をした、無数の死体たち。その中には、知っている顔も、知らない顔も沢山あった。 死体たちから流れる、血が水溜まりを作り、俺の体に絡みついてくる。 嫌だっ! 咄嗟に抜け出そうとするが、血で滑り、顔面を濡らしてしまう。 「オマエガコロシタンダ。オマエガ。」 無数の声が、頭の中で木霊する。 違う!殺したくて殺したんじゃない!殺さなきゃいけなかったんだ!違う!違うんだ! 何も映さない瞳たちが、俺を見つめている。体中を、無数の手が這いずり回る。息苦しくて、色んなところが痛くて、噎せ返るような血の匂いに、頭がおかしくなってしまいそうだ。 「アル!」 無数の声の中で、一際鮮明に、最近付けられた名前を呼ばれた気がした。 ゆっくりと足元を振り返る。 先ほどまで無かった、左足の先には、何も映さない瞳で、真っ赤な白衣を着て、血だらけな彼が、足を掴んでいた。 「…た。お…した。おまが…ろした。」 「ディット?」 「…オマエガコロシタ!」

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