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第29話

植え終わった花たちを、立ち上がったディットに再び抱かれながら見下ろす。 少し、疲れたが、何だか嫌な感じじゃない。 「どんな花が咲くの」 「俺も知らねーな。まぁ、いろんな色の花が咲くらしいぞ。」 「どれくらいで咲くの」 「もう蕾が出来てる苗だから、上手くいけば、直ぐに咲くさ」 小さな苗たちは、風にその蕾を揺らしているのに、俺よりも強そうだった。 苗を見ていると、胸がざわざわするのに、嫌な感じじゃない。 ディットに抱き上げられているのも、風が寒くなってきたからあったかくて、嫌な感じじゃない。 経験したことのあるそれらが、今までの感じとは全く違うのが不思議だった。 「ねぇ、ディット。ずっとこのままここにいられたらいいのにね」 初めて覚えた感覚だった。ここに来た時から、戦場に戻らなければと思っていたのに、戻りたくないと思ってしまった。 それが、とても酷いことをしているような気持にする。 「お前が望めば居れるさ。そして、この花が咲いて、枯れてしまっても、また花を植えるんだ。その花が咲いたら、また一緒に眺めればいいさ」 俺の少し上にある顔は、なんだか嬉しそうだった。 また、花を眺める。 できるだろうか。 いや、たぶんできない。俺だけがそんな事をしていてはいけない。 でも、いつか、それができるような日が来ればいいと思いながら、目を閉じる。 ディットの体温が眠気を誘ってきて、頭を撫でられる温もりに意識を手放した。 ずっと、ここにいれたらいいのに。

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