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第34話
その日は、いつもと変わらない穏やかな日だった。
暖かく、柔らかい日差しが窓から差し込んでいる。
ベットに起き上って、忙しく動く人の動きをボンヤリと眺めている。
ふと、答えに辿り着いてしまった。
あぁ、そうか。
あははと渇いた小さい笑いが漏れ、自分の掌を見つめる。
あれから、幾ばくかの月日が過ぎた。そんなに、長い時間ではなかったような気がするけど、懐かしい気がする。
僕の掌の赤はその色を失うことなく、ドス黒さを増していた。
瞼を閉じれば、名前も知らない人たちの苦しむ顔が浮かぶ。耳元で叫ぶ声も。
あぁ、そうか。
俺はこの景色を見るために。
失われた、左足の膝下を見つめる。
酷く痛む日もあれば、もともとそこには何も存在していなかったかのように、しっくりと馴染んでいる日もある。そして、今は鉄の塊が、その硬質さを訴えかけている。
その足をそっと撫でる。
あぁ、そうか。
俺はこの景色を見るために。
あなたのその光のように輝く髪を見るために。
ベットからゆっくりと立ち上がり、枕の下に手を入れる。
ずっしりと重い小振りな鉄の塊は、以前隣で寝ていた老人が置いていったものだ。
その塊をサラッと撫でる。扱ったことのないそれは、何故かしっくりと手に馴染んだ。
あぁ、そうか。
俺はこの美しい景色を見るために。
あなたのその光のように輝く髪を見るために。
その、大地のような深い緑に射抜かれるために。
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