「や！…うぅうっ…」 　なじませるようにそこを撫でると、佐倉の、今度こそはっきりとした悲鳴。 　グリップが、かたん、と鳴った。 　佐倉は全身を細かく震わせていた。 　ももの内側にあるそこの、付け根から上に向かって左手の親指で刺激する。跳ね上がる腰を右手で抑えつけて、その手をすべらせてそのまま佐倉の芯を握る。 「ぁっ！あ」 　透明な佐倉の声は、自分の体の反応に驚き、うろたえていた。 　ローションのせいでクチュクチュといういやらしい音をたてて、佐倉の反応を申し訳なく思いながら、それでも俺は右手を上下に動かし続ける。左手でその下を撫でまわす。 　これでいいみたいだ。自分以外の、しかも男にこんなことをしたことなかったけど、佐倉のそこは、徐々に膨らみ始め、固さを増してきた。 「…く…、ふっ、ん…ッ！や…ダメ…ッ…」 　細い腰が、薄い胸が、震えながら上下している。 （もう少し…） 　左手の指をなんとなく体の奥のほうへ向けて伸ばしたとき、 「あ！ンッ！」 　佐倉がすごい声をあげて俺の手首ごと腰をひねった。 （やばい、肩が！） 　両手でとっさに佐倉の足の付け根をつかんで広げてから、腰を上げて佐倉の肩に手を伸ばす。ぬるぬるしたゴム手袋の上から、両手で佐倉を抑えつける。 　でも、右手が佐倉の裸の肩の上をすべってしまい、勢いでバランスを崩した俺は、佐倉の体の上に倒れ込みそうになる。 （危なっ…） 　倒れ込む寸でのところで、右手を佐倉の肩の下にすべらせ、なんとかその下のマットをつかむ。それでも危なっかしいので、左手も同じようにしようと力を抜くと、そっちの手は佐倉の胸を斜め下へとすべり降りてから佐倉の胸のわきに着地した。 「ッ！」 　佐倉の体がびくんと動く。 　俺の左手が、図らずも佐倉の胸の小さな突起を探ったからだ。薄手のゴム手袋の上からでも感触がわかった。 　肩はセーフだ、と思う。少なくとも村崎の声はしない。 　そして、俺は。 　このときの佐倉の顔に、俺は一瞬固まってしまっていた。 …――見とれてしまった。佐倉に…。 　佐倉の顔は、今や俺のすぐ目の前にあり、アイマスクが濡れていて、…泣いているんだと、わかった。 　屈辱感からか羞恥心からか、…それとも興奮からなのか…、白い頬は上気して赤みを帯び、くちびるは、透明な液体で濡れて、薄暗い照明を反射し、白く輝いて見える。 　その奥では、ピンク色の舌が、はあはあと荒く呼吸を繰り返している。 （…気持ち、良かったのかな…） 　女の子みたいな声をあげていた。 　女の子は、でも、イクふりをしてることもあるという。その点、男はわかりやすい。硬くなるし、イクと射精する。 　あの苦いクスリも無しに、俺が、イカせるんだ。佐倉を…。 『…かわいいでしょう。』 ――はっ。 『佐倉くんはねえ、僕のお気に入りなんだ。』 「村崎さん…もう…いやだ…」 　佐倉が辛そうにつぶやく。 『立花くん、佐倉くんはさっきの部分がすごくイイみたい。早く終わらせたいんだとしたら、そこだね。』 「…村崎、さん…」 　佐倉は完全に涙声になった。くちびるがわなわなと震えて、嗚咽まじりの息を吐いている。 　俺が体を動かそうとすると、佐倉は俺にすがってきた。 「立花くん…もう、やめよう…」 …ごめん。佐倉。 　声に出して何も言えない代わりに、佐倉の頬を軽く撫でた。佐倉は一度大きくしゃくりあげ、耳まで赤くして、しかし俺の言いたいことに「わかった」とでもいうように、細かく震えながらも小さくうなずいた。 　そう。ここまで来てしまったんだ。早く終わらせよう。 　佐倉はそう、理解してくれたんだと思う。 ――でも、実は、このときの俺の“本心”は違っていた。 　佐倉が、この俺の手の中でどうなるか、見てみたい。 　もちろん早く終わらせるのが第一だ。 　だけど、心のどこか暗いところに、ほんの少しだけ、それを願う俺がいて、そいつは、佐倉を、たまらなくイかせたがっていた―― 　行為を再開する。佐倉はじきに息を荒げ始めた。少し落ち着きをみせていた佐倉のそれはすぐ、今まで以上に熱を帯び、隆起し始めた。 「くっ…」 　佐倉はしばらく声を抑え続けていたが、俺が例の箇所を執拗に“攻撃”し始めると、それに耐えかね、体を痙攣させながら、ますます女の子みたいな声をあげはじめた。 「…やっ…アッ、あぅ、…ン、ンッ、は、…あ！――ぅ…っン！」 ――あ 　こいつ、イく――… 　俺は、そこでとっさに手の動きを止めた。 　もっと佐倉に触れていたい 　佐倉の声が、聞きたい―― 　俺の中の、邪悪なそいつが、俺のどこかを狂わせ始めていた。 　佐倉のそこは、寸止めを受けて苦しそうに悶えて見えた。 「た、ちばなくん…」 　佐倉―― 　歯を食いしばり、荒い呼吸のままで、佐倉が懇願しているのがわかる。（早く、終わらせたいんだ。） そうだよな…でも… 　俺は、佐倉に見とれたまま、半ば興味本位で、濡れた指を奥へと伸ばし、そこに、指先を挿入した。 「…ッ！？―― ッア…！」 　跳ね上がる体を、ぼうっと見つめる。 （肩…離すなよ…佐倉…。） 　右手で前のほうをゆっくり刺激しながら、人差指を、さらに奥へと進める。 「や！あぁ！」 　佐倉の切なそうな声。なぶりまわしてるみたいだ。 「…く、ぅんっ！…ひっ…」 　でも、すごく感じてる。 　右手の中のものがすごく熱いし、見なくても形がわかるほどに硬い。 　人差指にかかる緊張。…これが指じゃなくて、俺のアレだったら… 　一度人差指を引き抜くようにして戻し、中指をそろえてまた入れる。 「くっ、ア！アア…！！」 　ローションのせいで２本の指先は滑り込むように佐倉の中に入って行く。 「ひっ…ひ、ぐ…！」 　佐倉の胸がのけぞり、細い膝が俺の体を挟み込んで震えながらぐっと締め付ける。 「んっ、ン…く…ぅ…！」 　呼吸に混ざるあえぎ声。その声は抑えられずに大きくなる。佐倉の口が大きく開いて、中から透明な液体があふれ出ている。 …すげー…やらしい顔… 「あ！あ！あ…！」 　腰が、何度か痙攣し、 「…――！」 （あ、） 　とっさに左手で佐倉のそこを押さえた次の瞬間、左手から溢れ出た佐倉の精液が、佐倉の下腹部を這い上がった。へそから一気に胸の間を抜けて、細い鎖骨の、その上のほうまで、白濁した液が到達する。 　佐倉は、今度こそイッたのだ。 　左手の中で、佐倉のそれは役割を終えたかのように柔らかくなり、ほどけていった。 　でも佐倉の体はまだびくびく震えていて、呼吸には苦しそうな佐倉の声がかすかに混じって聞こえた。 『気持ち良かった？佐倉くん。』 （！） 　村崎の声に、はっと我に返る。 (――…あ…！） 　なに、やってたんだ、…俺…！ 　村崎の声には相変わらず含み笑いが混じっていた。 ――これじゃ、村崎と同じじゃないか！ 　頭の中にだんだんと動揺が広がってきた。 　俺は変態じゃない！ 　あわててゴム手袋を外してベッドの外に放り投げる。 …なのに体は興奮を覚え、そこが少し勃(た)っているのがわかった。 『じゃ交代。今度は立花くんが気持ち良くなる番だよ。』 ――えっ？ 　思わずテレビを振り返ったとき、ベッドがきしんで揺れた。また前を向くと、佐倉が起き上がって縄跳び紐をほどこうとしている。 　はあはあと、呼吸のまだ荒いまま、がちゃがちゃとグリップをつかまえて胸の前で何かしている。かなりあわてているらしく、手元がおぼつかない。 　ほどくのをあきらめたのか両手をアイマスクに伸ばした、そのとき、　 -------→つづく