5 / 22

クスリ

『なにやってるんだ!佐倉!』  思わず俺まで緊張してしまった。  佐倉はアイマスクを外せないままに固まってしまった。  村崎のものとは思えない怒声。 『…マットから肩を外していいって、キミに言った?僕。』 …村崎の、こんなに激しく憤った様子は、初めてだった。  佐倉は震え始めた。  だって、交代だって、言ったんだ。  俺だって今度は俺がアイマスクをさせられる側なんだと思った。 『まったくもう。またペナルティを考えないとね、佐倉くん。』 ……? (…なんだよ、それ…。)  いつの間にかクスリをくれるかどうかじゃなくて、ペナルティが課せられるかどうかのシステムになってる。 …きっと帰したくなくなったんだ。俺たちを。  でもだからと言って、村崎の機嫌を損ねるわけにはいかない。 『ペナルティはあとで発表するから、とりあえず立花くん、最後の指令。佐倉くんを、』 『 犯してください。 』 「――…!…」  驚いて思わず息を吸い込んだのは佐倉のほうだった。もちろん、俺の心臓も飛び跳ねた。 『引き出しの中にコンドームがあるから、ちゃんと佐倉くんの中に出しきるまでやめちゃダメだよ。』 「…やだ…だめだ…そんなの…むり…」  佐倉はうわごとのようにつぶやき、がたがた震えながら後ずさりを始めた。からまった縄跳びが手首に巻きついたまま、ベッドの端を探っているようだ。 『立花くん、佐倉くんが逃げちゃうよ?』 (あ…)  思考が停止したまま、俺は腕を伸ばし、佐倉の、紺色の靴下を履いた細い足首をつかんでベッドの中央へと引っ張る。 「やだあっ!」  軽い体。足を引いて丸まろうとする体を引き、さらに佐倉の腰を引き寄せ、肩に手を置き、マットに押しつける。  佐倉は、俺を確認し、震えながら言った。 「…無理だよね…」  佐倉が赤い紐がからんだ手を伸ばしてくるので、俺はますます動揺した。佐倉は、俺に一縷の望みを託している。  でも俺は…  混乱していた。  どうしていいのかわからない。  恐怖や屈辱といった感情は、どうやら超えてしまったらしい。  今、俺を支配しつつあるのは… …欲望…  混乱と、興奮。  佐倉に対する罪悪感。  自分に対する嫌悪感。  自分の理性に対し、コントロールがきかなくなっている。  誰か、佐倉以外の誰かに、俺を止めて欲しい。  このままじゃ俺は… 「立ば……」 (よせ佐倉…)  佐倉がこれ以上俺をかき乱すのを止めたくて、軽く口を押さえた。このまま佐倉の声を聞いていると、どこがかおかしくなりそうなのだ。 (――…。)  ところが、あたたかなくちびるが手のひらに触れると、俺はますますどうしようもなくなり、そのまま、意味もなく、佐倉の口のなかに指を入れた。  佐倉の舌は、猫みたいに薄かった。 「…ぁ、ちばな、くン…?」  佐倉… 『――どうしたの立花くん?やるの?やらないの?』 …やるよ。  やってやる。  佐倉の口から指を抜いて、いつの間にか俺の胸元を握っていた佐倉の手首を手繰り寄せ、もう一度縄跳びを縛り直す。 「立花くん?」  グリップをマットに突き刺す。 「…フ…、フリだよね…?…無理だよね…?」  佐倉の前髪を撫でる。  佐倉の髪は、汗ばんでいるせいで少ししっとりとしていたが、俺の指を、さらさらとすり抜けた。女の子の髪みたいだった。 「…。」  佐倉はだまった。また天井を向いてじっとした。  俺のことを、今はどう思ってるんだろう。まだ俺に期待してるんだろうか。 (佐倉、本当、ゴメン。)  マットを降りるとベッドがきしんだ音をたて、それに合わせて佐倉の体が軽く上下した。  引き出しを開けて、コンドームは、例の苦い錠剤が入ったガラスケースの下に隠されてあった。  さっき佐倉にこのクスリを飲ませようとしていたら、気づいたんだろう、俺も。  村崎は、最初から俺に佐倉をやらせるつもりだったんだ。  さっきまでの俺なら、それに気づいたとたん、怖気付いて逃げ出してしまっていたかもしれない。 …逃げ出せていたのかもしれない。  ガラスケースを静かにテレビの前に置き、中の緑色をした錠剤を、1錠、ビニールを破いて取り出す。ガラスケースに落ちたクスリが、コロン、と音をたてた。  深呼吸する。  これを飲むと、どうなるか。  いつもは萎えきった状態で飲まされる。でも、今日の俺は、なんなら少しの興奮状態にあった。  だけど、男をやるんだ。女子とやるのとは、違うだろう。全然動かせずちっともイケないかもしれない。そんなとこ、  佐倉に、見せたくない。  クスリを奥歯に挟む。  ぷちん、と音がして、中の液体が出てくる気配。 「…ん」  やっぱり、そうとうマズい。苦みのあとに酸っぱさがきて、なぜかタイヤの匂いがする。 「立花くん…?」  後ろから、佐倉の声。  だけど今はとにかくこの味をなんとかしたい。  引き出しの、ガラスケースの横に置いてあった、パック入りの生ぬるいイチゴ牛乳。  いつも、せめて冷やしとけ、とか思っていた気がする。  パックにストローを突き立てて、急いでイチゴ牛乳を流し込む。  一気に、パックをつぶしながらどんどん吸い上げる。  パックが音をたて始めたころ、また、佐倉の声。 「立花くん!キミ、まさか、あのクスリ飲んでないよね?」 ダメだよ!あんなの飲んだら…  佐倉の声がだんだん遠ざかる。 (そっか。佐倉も知ってるんだ…。) …どうなるかも…  クスリが作用し始める。  2、3度咳こむと、鼻にイチゴ牛乳の甘ったるい香りが抜けた。 「はあ…」 …見せてやるよ。村崎…  制服を床に落とす。村崎の前で裸になることに、今やなんの抵抗もない。  コンドームをひとつ取り出し、そこに装着する。 (げ…)  やり過ぎたかもしれない。少し触れただけで、ヤバい。(かも。)  とんだ早漏野郎になったりして…。女子からは評判いいはずなんだけど。 「立花…くん…」 (いま行くって、佐倉。)  ベッドの上に乗り、佐倉に重なる。 「うわ!」  目隠しをされた佐倉は、驚いて、さっそくいい声を出した。俺のそこは、その声にすら反応してうずいた。  女の子にするみたいに、まずはキスをする。  佐倉の、猫みたいな舌に俺の舌をからませる。脳裏に、さっき見えたピンク色の薄い舌が蘇る。 「ん…っ」  佐倉はまんざらでもないのか。恐る恐る俺の舌を探ってくる。  いや、俺に合わせようと必死なんだ。俺のことを、未だに、 信用しているから?  かわいそうなくらいに、素直で、純粋で、無垢。 (…こいつ…) ――なんて、可愛いんだろう…。  俺がこんなに勃起しているのがわからないのか?手が自由なら、触らせて気づかせることも出来ただろう。  佐倉の甘い舌を存分に楽しみ、“邪悪な俺”は、首筋へと舌を動かす。  キスマークなんてつけたらさすがにまずいよな、などと思いつつ、佐倉の可愛い吐息が耳に入ってきたとたんにもうダメになった。  温かい首筋に夢中で吸い付く。 「はぁ…っ」  体の中心が熱い。早くこれをなんとかしたい。いきなり突き上げても佐倉は大丈夫だろうか。  自分の欲望に逆らえない。佐倉の白いのどを舌とくちびるで愛しまくる。女子を相手にするときですらこんなふうにはならないのに。 「あ… 立花くん…――硬い…」  俺のソレが立花の下腹部に触れたのだ。 (…そうだよ佐倉。お前は俺に、犯されるんだ。) 「苦しいの…?」  佐倉が俺のごく耳元で、つぶやく。 ――…いいよ、“フリ”じゃなくても…  ああ!始めからそのつもりなんだよ佐倉!  佐倉に息をかけられると、俺の中の狂気が一気に吹き出した。    --------→つづく

ともだちにシェアしよう!