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狂気
鎖骨をくわえる。
確認のために再び指を潜入させると、佐倉の中にはまだローションが残っているらしく、俺の2本の指は喜んで迎え入れられた。(少なくとも俺にはそう感じられた。)
「アァア…っ!」
のけぞる佐倉の鎖骨に甘噛みをする。
呼吸するたびに自分の舌が鎖骨に触った。
――はぁ… はぁ… はぁ…
今の俺は、無抵抗の獲物に今まさに襲いかかろうとしている、まるで、野犬か何かだ。
…はやくさくらがほしい…
指を抜いて佐倉の足を腕に乗せ、前かがみになって腰を持ち上げる。
はっ はっ はっ
涎が佐倉の首に滴り落ちた。
佐倉はまっすぐ俺を見ている。
黒いアイマスクの下で。
その佐倉の顔を目掛けて肩を落とすと、関節が柔らかいのか、佐倉の足は思い切り開いたので、佐倉は俺の目の前で恥ずかしそうに顔を倒した。
白い耳を舐める。
「は…」
佐倉が息を震わせた瞬間、俺は自分の抑えられない感情を佐倉の中にむき出しにした。
「ッ!!あ、あああ!」
佐倉が目の前でのけぞると、白いのどが見えた。
突き上げて、さらに奥に飲み込ませる。
「ひう――…!!」
――佐倉の体は、緊張感があってひどく心地いい。
「は、あ…」
(最…高…)
佐倉の頭の下にあったクッションを引き抜いて、腰の下に敷いて安定させる。
膝を折り曲げ、狂ったように突き立てる。
「あっ!あっ!あっ!」
俺が腰を往復させるたびに、佐倉は俺に白いのどを見せてあえいだ。
「うぅう…あ」
佐倉の中の自分が、脈打っている。
――でも…まだ…もう少しイケる――
腰を折って佐倉の肩と頭の隙間に顔を潜り込ませる。
腕を伸ばして繋がれた佐倉の手を探ると、佐倉の冷たい指先は必死で俺にしがみついてきた。力を込めて握り返す。
「あう、んっ、ぐ、あっ、あっ、あっあっあ…」
佐倉のあえぎ声が加速する。
その声に呼応するかのように、俺の中を熱い何かが駆けのぼっていく。
…すげえ。
女子とやるよりは確かに硬くてやりにくいけど、俺は、こっちのほうが好きかも…
(さくら…)
「…サツキ、さあ…ん!」
…え?
佐倉がひときわのけぞって、その瞬間、俺の下腹部に温かい佐倉の液が広がる。
「!…う…」
少し遅れて、俺のそれも佐倉の中を痙攣しながら昇りつめた。
村崎に言われたとおり、震えながら、佐倉の体の中に、すべて出し切る。
「はぁっ!…はぁっ!…はぁっ!…」
――ああ…!超気持ちイイ…ッ!
顔を上げると、佐倉が大きく口を開いて、必死に呼吸をしているのが見えた。
(こいつ…“サツキさん”、って、言ったか?今…)
気のせいかな…
頭が真っ白で何も考えられない。
じっとしていると、収縮していく佐倉の中で“再起動”してしまいそうだ。ようやく腰を動かして、結合していた体をゆっくりと引き抜いた。
「…ぁぅ…」
佐倉が小さく動いて悲鳴を出す。佐倉の上に体を重ねるようにして倒れ込んだ。
背中に手を回して後ろから肩をつかむ。
鎖骨に頬をうずめると、佐倉の息づかいと一緒に、自分たちの鼓動までもが、胸の下でひとつに重なった。
…悪くない、気分だ…
『気持ち良かった?』
…村崎!
足元から突如として這い上がる存在感。
あわてて佐倉から離れ、上半身を起こしてテレビを見る。
ウサギたちをにらみつける。
(――もう少し、佐倉と、重なっていたかったのに…。)
――…なんて、何考えてるんだ俺は。
佐倉の温もりから離れた瞬間、俺の中の、純粋で邪悪な欲望までもが村崎を憎んでいることに気づかされる。
『立花くん、良かった?』
村崎は懲りずにまた言った。
…なんだよそれ。相変わらず、最低だな。
『佐倉くんには見えてないから、僕にだけ教えてよ? 立花くん。』
声が俺の反応を楽しんでいる。
低俗な質問。そんなこと知って、何が楽しいんだ。
でも答えを引き延ばせば、奴は俺が動揺していると勘違いして、ますます喜ぶだろう。
(…悪くは、なかった…。)…いや…ていうか…確かに良かったよ、佐倉は。
仕方なく、素直に、一度だけ小さくうなづく。
そのままうなだれたように自分の体を見ると、喜びまくっていた自分の“凶器”に幻滅する。
村崎の質問に肯定したことで、奴と一緒になって佐倉を侮辱してしまったような、苦々しい気分になる。
(…くそ…。)
村崎…。
『わかった。キミたち、お疲れさま。今日はシャワーを浴びて帰っていいよ。』
(…。)
…!
『部屋の鍵は置いていくように。さて、どっちから浴びる?』
…終わった…!
(やっと…。)
口から安堵のため息がほどけ出る。
佐倉を振り返るが、佐倉は苦しそうに呼吸を繰り返しているだけで、そこにはなんの感情もうかがえなかった。
その反応は逆に俺の胸を締め付けた。佐倉に対する罪悪感…だけじゃない、何かが、俺をさらにやるせなくさせている。それが何かは、わからないけど…。
いや、グズグズしていると村崎の気が変わってしまいそうだ。
佐倉はまだ固まったまま動かないので、
「俺から浴びてとっとと帰ります。」
ぶっきらぼうに言い放ってから、ついでに佐倉の腕の自由を奪っていたグリップをマットから引き抜いた。
ムシャクシャしていたのでつい態度が乱暴になってしまった。佐倉が小さく震える。少し反省して、今度は、佐倉の手の上にそっとグリップを降ろす。
「…悪かったな…。」
(でもお互いのためになったろ。クスリはちゃんともらえるんだから。)
そんな言葉をかけそうになり、自分のあさましさに嫌気がさした。
佐倉の手首を軽くポンと叩いて、ベッドから降りる。着替えの入ったバッグを持ってバスルームに入る。
部屋の照明が抑えられていたぶん、バスルームの白い照明には目が眩んだ。
くすみ一つ無い、広い鏡に映る自分の顔は、殺気立って見えた。
佐倉は、どういう気持ちで見るだろう、自分の体を…。
シャワーを浴びていると、さっきの苦いクスリのせいか俺の体はまた熱くなってきて、結局そこで一発ヌく。
(サツキ、さあ…ん)
「あ」
イく瞬間、佐倉の声がした。
よろけてバスタブに座りこむ。降り注ぐ水滴をビチビチと浴びながら、考える。
…あれはどういうことだったんだろう。
“サツキ”というのは、佐倉が村崎と会うときに、村崎が使う偽名のはず。
恐怖のせいで、俺が村崎に感じられたんだろうか。
(佐倉には俺が見えてなかったし、俺は声が出せなかった。)
村崎…
自分の放った液がシャワーに混じって流れていくのを眺めていて、…むしょうに腹が立ってきた。
いや、これもいつものことだ。村崎に会ったあとは、指示を受けていた間よりも冷静になるので、苛立ちや悔しさが一気にこみあげてくるのだ。
…でも今日は…、
抑えることができない!
バスタブの壁を激しく蹴ると、
『こらこら、壊れちゃうよ?』
村崎の声に、飛び上がるほど驚いた。
…ここにもあんのか。カメラ。
怒りを通り越して、あきれてしまった。
--------→つづく
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