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意地悪
「…俺が怖い?」
無表情だったが、明かりの下で見ると、その顔は今にも泣き出しそうだった。
佐倉は俺から視線をそらして横を向いた。
さっきまで主導権はお前が握っていたのに。
ホントはやっぱり、小さくて弱くて、可愛いい佐倉。
「…俺が、嫌い?」
「…。…ここは硬くて、背中が痛そうだし…」
「大丈夫だよ、気をつけてやるから。」
嫌い、とは言わないので、じらしているだけなのかも、と思うことにする。
「俺はここでしたいの。」
「…じゃあ、明かりとか、せめて…消してくれ…。」
(なにそれ、女子かよ。)
ふっと笑みがこぼれる。確かに真上からの照明は、眩しいくらいくっきりと、佐倉の白い肌を映し出している。
…でも、
「やだ。佐倉が見たい。」
佐倉は表情を曇らせて横顔のままきつく目を閉じた。やっぱりまつげ長い。
「…見られたくないんだ。…頼むから…。」
次に俺を下から流し見た顔は、不機嫌そうで怒って見えたが、その目はうるんで、本当に今にも涙が落ちそうだった。
…やばい。そんな風でそんなこと言われると、ますます興奮してくる…。
「わかった。見ないようにする。」
明かりを消すとは言わず、追い詰められた佐倉の細いあごをそっと触って、佐倉の顔に近づく。
「…だから…。見るな…。」
佐倉の視線がウロウロとさまよう。俺から視線をそらしたがっている。
俺に見つめられていることに、少し動揺しているようだった。
動揺した佐倉も可愛い、なんて、村崎みたいなことを考えそうになる。
佐倉の抗議に謝罪しなければと思いつつ、本能は佐倉の舌を求めていた。
くちびるを重ねる。
逃げ腰の佐倉がテーブルから落ちてしまう前に、体を俺のほうへ引き寄せて、さらに舌をからめる。
「…んっ」
少し怯えた佐倉の声。
リンゴの香り。
佐倉の舌も、甘い、リンゴ味。
「…は…、…ン…」
(やりたい放題だな、俺。)
これは佐倉から舌を噛まれても文句は言えないだろう。
覚悟を決めているのに、佐倉は、意外にも俺の顔をぎこちなく挟み込んで、ホテルのときのように、やっぱり俺の舌を恐る恐る探ってくる。
佐倉が受け入れてくれたことに単純に嬉しくなった俺は、遠慮なく、貪欲に甘い舌をむさぼった。
十分堪能してから佐倉を“解放”する。
佐倉は耳まで赤くなっていて、何度か苦しそうに呼吸を繰り返す。息がうまく出来なかったようだ。
佐倉のくちびるの端からこぼれている透明なしずくを親指でぬぐってやる。
「…ぜんぜん抵抗しないんだな。」
目を開けた佐倉は、なぜかまだ俺をきつくにらむ。
「…いつも、やってるの、こんなこと…」
…また、女子みたいな質問。
「うちではしないよ。家には女子はあげない主義。」
「そういうことじゃ、なくて…」
「なに?」
佐倉はだまった。
佐倉の上半身を支えながら、ゆっくりと佐倉を寝かせる。
はだけた胸に再び舌を押し付ける。
「…は…っ」
それだけで佐倉は、ビクンと体を震わせた。
(緊張してるのかな。)
…それとも、感じやすいのかな。
「佐倉は、いつもこうなの?」
「…アっ…こう、って?…」
俺の声の振動が佐倉の突起をくすぐったのか、佐倉ののどの奥から一瞬かわいい声が聞こえた。
「ここらへん、こんなふうに舐められると、感じんの…?」
我ながら、低俗かつ悪意のある質問。
「は…、よせ…」
腰にむけて右手を伸ばすと、佐倉も左手で“応戦”してくる。
「いや?」
「…っ、…だめだ、やっぱり明かりは消してくれないか。」
「大丈夫。俺は佐倉の体ならもう十分見てるから。」
「立花くん…!」
右手で寝巻きのひもをたぐってほどく。
そのまま手を寝巻きに入れると、驚いた佐倉の左手が俺の二の腕を捕まえて一瞬引っぱった。でも佐倉はすぐにあきらめて、そのまま俺の袖をぎゅっと強く握った。
目の前にある佐倉の反応を、俺はすっかり楽しんでいる。
「ッ」
俺が佐倉の芯に触れると、その瞬間だけ佐倉は息を止めた。
…あれ?そういえば。
「…佐倉、下着、はいてないの?着替えと一緒に新品、置いといたのに。」
「…――だっ、て…」
佐倉の顔を見る。
眉をひそめて、目をきつく閉じている。
頬が赤く染まっていて、耳まで赤い。
緊張した佐倉は、悪いけどやっぱり可愛い。
「…ぶかぶか、だったから…、ッア」
右手を動かすと、佐倉の口から色っぽい声が漏れた。
「…で、どうしたの?」
「…使った、タオルと一緒にたたんで、置いてあるっ…ちょ、っと」
「細いもんなあ佐倉の腰。」 俺の寝巻きだってそうとう絞って履いていた。
「…ひっ、うっ」
佐倉があまりに苦しそうに声を出すので、慰めてやるかわりにまたキスをする。
「…んん」
不思議と、佐倉はキスを嫌がらない。必死で俺に合わせようとしてくる。でもぎこちない。
そのぎこちなさも、なんだか愛らしい。
――佐倉の反応がもっと見たい。
なにを思っているのか、知りたい。
「…もしかして佐倉、キス、初めてとか?」
「…――あ!」
“あのとき”見つけた、佐倉の一番敏感なところを探り当てた。
佐倉の腰がびくっと跳ねる。
「だからこんなにぎこちないんだ?」
耳元でささやくと、くすぐったそうに肩をすぼめられた。
「や」
「高校生なのに、マジで?」
「…やめてくれ…っ…そういうの…」
「…でも、俺のキスはいやじゃない、だろ?」
「…は、…だめ…っ」
意地悪く佐倉のそこを探っていくと、佐倉の体がわななき始めた。腕で俺の体を押しのけようとし始める。
でも、本気とは思えない。その力は、あまりにも弱よわしい。
佐倉は人と接したことがないのか?
俺の体を押しのけるにも、いや、俺に触ることすら、“こわごわ”だ。
「佐倉はガキの頃、友達と叩き合いのケンカとかしたことある?もしかして兄弟ゲンカもしたことないんじゃない?あ、佐倉も一人っ子?」
俺は意地悪だ。
佐倉の反応が見たくて、話しかけるふりをしながらそのきれいな顔をながめる。うっすらと汗ばんだ、眉間のひだを見る。
きつく結ばれた長いまつ毛。頬は、上気した淡いピンク。
俺のせいで細かく震えている舌をのぞく。
もしかすると、あのときの“邪悪な俺”が、再び蘇ってきているのかもしれない。
なにしろ無性に、佐倉の顔に、そそられている…。
「なあ…佐倉。答えろよ。」
「…だめだやめろった、ち花…くん…っ!」
指先に力を込める。
「ああ!」
「『くん』じゃなくて、『さん』だろ。先輩だぞ、俺は。」
「…ア!!」
佐倉の全身が震えて、俺の右手が濡れる。
「…はあ…はあ…はあ…」
佐倉の指先が俺のシャツから離れて、力なくテーブルに落ちた。
佐倉はすうっとまぶたを開けて、黒く澄んだ瞳を見せた。
でも、俺の視線に気づくとまた不機嫌そうに歯を噛みしめて、潤んだ瞳を閉じた。
その表情は、恍惚としているどころか、なぜだか悔しそうにすら見える。
-------------→つづく
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