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激情
「…佐倉のもっと気持ちいい場所、知ってるよ、俺。」
「やめろっ…立花…っ!」
だーかーら。
「先輩を呼び捨てにするなよ佐倉。」
左腕で、崩れ落ちそうになる体を支え、右手で下腹部を撫でまわす。佐倉の“好きな”場所は、あえて外して。
「…うっ、うう…」
「…イきたい?イきたいよな、こんなに辛そうだもん。」
佐倉はときおり体を痙攣させ、俺の肩に頭を押し付けて、まだ耐えようとしている。
「はっ、はっ、はっ…」
「ムービー撮って見せてあげようか?村崎ならしそうだし。」
佐倉はうつむいて、首を激しく横に振った。
「…イきたい?」
佐倉は答えない。奥歯から、ぎりっと音を立てた。
「声出すのが辛かったら、うなずくだけでいいんだけど。」
佐倉はすでに全身を震わせながら息をしている。
早く楽になりたいくせに。
俺だって佐倉を気持ちよくしてあげたいんだ。奴とは違う。
「はあ…ぁ…、…はっ…」
「ね?…さくら。」
耳元でつぶやくと、佐倉は、震えながら、でもついに、かすかに、うなずいた。
「え?」
俺が意地悪く確認すると、佐倉は、うなだれたまま、かすれた、消え入りそうなくらい小さな声で、「いきたい」とつぶやいた。
「いいコ。」
「ひっ…ぃ、…う!」
素直に言えたので、“ご褒美”に焦らしてあったそこを刺激してやる。
佐倉の反応を見ながら、ゆっくり、じわじわと。
背中から佐倉を抱き寄せているので、佐倉の顔が見えないのが残念だな、と思う。きっとすごくきれいで、でも、淫らで、色っぽい顔をしてる。
「んっ…あ!…ァ…ぅ…!」
佐倉の体は何度か俺の腕の中で跳ねた。でもまだイかせない。そのたびにわざと“ポイント”をずらした。
あさましくて情けないのはわかってる。でもそれが、唯一にして最大の、俺の、佐倉への“復讐”――
「もっかい言って佐倉。俺に、イかせて欲しい、って。」
「…ひ…や… …は、早く…終わっ…ぁら、せて…」
「早く、なに?どこをどうして欲しい?こう?それともこう?」
「ひあっ!ぃァっ…んん!」
いい声。
軽く握ってみる。佐倉のそこは俺の手の中で、固く、熱く、震えていた。
「立花、くん…も…駄目…」
佐倉の背中と腰がひときわビクビクと震え、限界に達したそこから、溢れ出す、佐倉の蜜。
瞬間、佐倉の背中は一気にのけぞり、佐倉はその肩越しに、飛び散る白い愛液を俺の目の前に映して見せた。
しなった背中は、すぐにくにゃん、と崩れた。俺の胸に沿って、ズルズルと沈みこむ。俺の腿まで頭が落ちて、やっと顔が見えた。
犬みたいに潤んだ黒い大きな目は、まだぐるぐると彷徨っている。
口の端からこぼれている涎にさえ、色気を感じた。
息づかいのたびに見え隠れする、桜色の舌。
「―― ほどいてくれ…」
開口一番、佐倉は自由を求めた。
「…家に、帰る…」
「帰らないって言って来てるんでしょ?」
佐倉はまばたきをしてキラキラと涙を落とした。とてもきれいだ。
「…帰りたい…」
涙声。かすれたその声すら愛らしく感じた。
「まだ駄目。村崎のことを忘れて、俺のことしか考えられなくなるまで、帰さない。」
だって、それがお前への最後のペナルティなんだろ?お前は村崎を忘れるように言われたわけだから、俺がそれを手伝うのは当然だ。
佐倉はわけがわからないようだ。怯えた顔を見せている。無理もないか。さっきまで優しくしてやってた俺が、いきなり豹変したんだから。
俺にもこの変化を説明できない。どうしたんだろうな、俺は。佐倉にこんなことをする気は、ついさっきまではなかったのに。
“サツキさん”、と、佐倉がその名前を口にした瞬間、激情に駆られた。
佐倉に裏切られたかのような、絶望的な気分にさえなってしまった。村崎に対する憎しみが、今は、そのまま佐倉に向けられている…
―― 『サツキ、さん…?』
ホテルで佐倉を見たとき、佐倉が、一番最初に口にした言葉。
村崎を待っていたんだ。
佐倉は今日、あいつに抱かれる覚悟でいた。
耐えられない。この世で一番死ねばいいと思う人間を、佐倉が愛していたなんか。
…あんな奴に抱かれるより、俺に抱かれたほうが、佐倉も幸せだろ…
「…ローション、好きだよな。取ってきてやるよ…。」
「…いやだ…!」
繋がれた手を必死に伸ばして懇願しようとする佐倉の顔を、なだめるように撫でて、優しく頭を押さえつけ、ベッドを降りる。
俺は、村崎が俺たちのために用意した一式をホテルから拝借して帰っていた。
少しでも村崎の癇 に障ればと思ったのだ。…まあ、村崎にとってはそれくらい痛くも痒くもないことはわかってたし、要するに、ただの好奇心だったわけだけど。
いつも使ってるアディダスのエナメルバッグはけっこうマチがあるから、ゴム手袋だって、村崎が使い捨てのを何枚も用意してあったのをまとめてもらって帰っていた。
村崎からもらった白い紙袋も目に入る。佐倉の分と併せて、ふたつ置いてある。紙袋にはまだ手をつけていない。いつもなら、村崎に弄ばれた腹いせに、帰って即行クスリを試すけど、今日は佐倉がいる。
―― 『君はクスリのために会ってたんだ?』
タクシーの中での、佐倉の声。
―― 『あげるよ。僕はコレには興味ない。』
じゃあなんのためにあんなことしたんだ、俺がそう聞くと、佐倉はつぶやいた。
―― 『…村崎さんのためだよ…』
記憶の断片が蘇ると、また苦々しい思いがこみ上げてくる。
…なんで、気づけなかったんだ、俺は。
やるせなくて、情けない ――…
拳を一度強く握りしめ、振りほどいて、感情を落とそうとしてみた。
ベッドを振り返ると、佐倉は向こうを向いて、小柄な体をさらに小さく丸めて震えている。
「佐倉。」
「くっ…」
軽く触れると、佐倉は声を殺した。泣いているのかと思ったら、クスリのせいでまた体がうずき始めていて、抑制が効かなくなってるんだとわかった。
「本当に、クスリが効きやすいんだな、佐倉。」
「…ッ…。触る、な…。」
…へえ。そんなこと言うのか。
情緒不安定な俺の心は、今や、お前のせいで張り裂けそうだというのに。
―― 『キミは、サツキさんに直接会ったことがないから、そんなふうに言うんだよ。』
村崎を思い返したときの佐倉の表情。
それを思うと、佐倉に対する怒りが増していく。
―― そう。俺は、村崎がお前に言ったような、“いい人”なんかじゃない。
ホテルのときに現れた、良くないほうの、“立花”だ。
見せてやる。今や“奴”は、お前を苦しめてやりたいという思いで、いっぱいだ。
右手に手袋をはめ、そこにローションを垂らして、佐倉の体に手を伸ばす。
「ぐっ!…」
左手で肩を掴んで佐倉を反転させてから、右手を足の付け根の、そのまた奥へと滑り込ませる。
「いや…!」
今度はしっかり見てやる。俺のおかげで絶頂を迎えるときのお前の顔を。
アイマスクも、カメラも、村崎も無し。
-------------→つづく
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