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第5話

 沈黙が流れる。  空気が流れる。  ぴりぴりと痛いような感覚が頬を差す。    「どういうことだ?」 百済は、その厳めしい顔をさらに苦くして声を振り絞った。 「ですから……。」 口を出そうとした、新羅を高句麗が掌で制する。 「脳内筋肉のあんたにゃ、理解が追い付かないだろうけも、理解しな。てか、俺は外科医だぞ?専門外なんだよなぁ精神科は。」 精神科。 その言葉を聞いて、二人の大男が、びくりと体を震わせる。 「それから、まだみたいだから渡しとくわ。」 ぽいと乱暴に放り投げられた細長い物。 新羅が表情一つ変えずに受け取ったそれは、注射器のような形をしており、ビニールにつつまれている。 抑制剤。 発情時にそれを抑えられると言う薬剤だ。 百済は、目を見開いて高句麗を見やる。 「あー……まれなんだが、坊ちゃん、発情期まだ来てないだろ?この年では、遅い方なんだが、その分来たときに反動があるはずだ。持っといて損はないだろ。」 ぶっきらぼうにそう告げると、ひょろりと立ち上がる。 「後は、坊ちゃんの心の問題だ。あんたらがサポートしてやらんと、」 引き戸を開け、タバコを咥える。 「死ぬぞ。」 庭に降り、石を擦る音が響いた。 高句麗から、甘い煙の匂いがあがる。 フロンティア。 チョコレートのような甘い香りのタバコだ。 愛好者は多いほうらしい。 「じゃあな。また、なんかあったら呼んでくれ。」 ひらひらと手を降り振り返りもせず、歩いて竜崎組の敷地をでていく高句麗に、二の句を告げないでいる、若頭と補佐であった。

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