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第6話

「なんで、なんでだ・・・」 走ったところで高なった鼓動は更に増すだけで落ち着きは取り戻せなくて唇をゴシゴシと擦りながらやがて走る脚はゆっくり落ちていきたどり着いたの教室でそのまま真っ直ぐ向かったのは高さは違うが2つ並んだ肩に顔を埋めた。 「うわ、なんだよ」 「ゆーちゃんどしたの?」 「・・・」 姫路兄妹の肩に埋もれて訳わかんねぇなと言いながらも凛に続いて蓮まで髪をわしゃわしゃとしながらその優しさに涙ぐみ鼻を鳴らした。 「小谷木〜鼻水はつけんなよ」 「え〜ティッシュあげる〜」 蓮と凛はずっとそのままでいてくれて唇と目、鼻が赤くなっている優を見て笑っていた。 午後の授業が始まり、教室に入ってきた教師でさえ優の顔を見て吃驚していて帰るかと心配で声をかけたのだろうがみんなに知られて更に恥ずかしくなったが大丈夫ですと授業を受けた。 たった1日で疲れていた優は鞄に物を詰めながらため息をついた。 「うーんんん」 帰るということすらめんどくなった優は机に頬をつけて唸った。それを聞いた凛は声をかけてきて何度も頭を撫でいた。 「ゆーちゃん気分転換に遊びに行こ〜蓮は?」 「あー・・・俺は用事あっから楽しんでこい。おーい、朝風漫画返せや」 今1番聞きたくない名前にビクリと身体がなる。昼休みから声はかけてこなくていつ戻ってきたのかさえ知らなくて目を合わせていない。 今は合わせたくないし意識すらしたくないのに思い出すように胸が痛くなる。 「わかったよ〜ゆーちゃんどこ行く?」 「ここ以外で落ち着ける場所」 優と鞄を2つ持つ凛を見て本当は男の自分が持つべきなんだろうがそう思っていても気力すら出なくて後をついて行くしか無かった。 「駅のところのスイーツの店行きたいんだ〜。男女で行くと半額なんだからゆーちゃん付き合って」 「甘いのは好きだけど、今日はそんな気分じゃないし蓮と行けばいいじゃん」 「男って蓮はお兄ちゃんだしカップルじゃないもん」 可愛く膨れて言う凛は女の子でこんな可愛い仕草と整った綺麗な顔に世の男性はときめくのは当然だろう。女の子とときめきたい、そう思うのに頭の中で朝風が出てくる。 「ゆーちゃん、行きたくないの?」 「・・・なんでもない。今日らいっぱい食べるからな」 負けないよ、と凛は意気込んで店へと向かった。 ドアを開けて踏み入れた店はミントグリーンの壁に店の箇所に何種類もの観葉植物が置いてあり森をモチーフにした落ち着いた内装ですーっと身体が軽くなった気がした。 店員に案内されたのは窓際のテーブル席に向かい合わせに座る。貰ったメニューを開くと文字と写真が載ってありわかり易くて全部が美味しく見えて逆に迷ってしまう程だった。 「全部が美味しそうで迷うね〜」 凛も同じようなことを思っていてお互いじっとメニューを眺め、凛はシフォンケーキで、優はエッグタルトを頼んだ。 暫くして2つのデザートが目の前に置かれ甘い匂いによだれ垂れそうになる。 口の中に広がる香ばしいタルト生地と甘いカスタードが交わって味を噛み締めながらゆっくりと飲み込んだ。 (幸せだぁ) 「美味しい!顔が蕩ける〜」 「俺も〜」 今日のことを忘れるほど美味しいデザートと共に凛と楽しい時間を過ごした。 「またスイーツ巡りしようね」 「行きたいって言うなら付き合ってやるよ」 好きなくせに、と素直じゃない優を小突いて、優とは方向の違う道を手を振りながら帰っていった。 凛の姿を見送り、優も寮へ向かうことにした。寮の門限は21時となっていて18時過ぎでかなり話し込んだが、余裕で間に合う。 寮の玄関で靴を脱いでいると、後ろから小谷木と呼ばれ聞きなれた声に振り向くと、蓮とその横に朝風がいて落ち着いて心がまた騒がしくなり目を逸らして靴を片付けていく。 「楽しかったか?」 「うん、まあ。ケーキ食べてきた」 「凛もだけどお前も甘いの好きだよな。俺は無理だわ」 なぜ2人でと思ったがそういえば漫画ががどうのって言っていたから蓮がいたのだろう。 2度目の見送りをしてずっと無言の朝風が不気味でいたたまれなくなり足早に部屋へと行く優の後を朝風は着いてくる。同じ方向だから仕方ないが、未だに無言の朝風が気になりドアの前についてちらりとみると朝風と目が合う。 「なに、見とれた?」 (見とれるわけないだろ!変態ナルシストめ) 反論したら終わりだ、また、何かされたらと嫌だと心の中で悪態をつきながらも緊張していた。 「ふっ。おやすみ」 鼻で笑って挨拶だけをして部屋へと消えていく姿を呆然と見ていた。いつもはそれでもちょっかいを出して来ては背後を取られる。やめて欲しいと願っていたことだが、まさか笑われ何もしてこなくて何か不気味さえ覚える朝風の行動にモヤモヤした感情に戸惑っていた。

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