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第13話

「んん〜」 いつの間にか寝ていて起きると薄赤色の夕日が窓に入ってきて放課後まで寝ていたのだろう。 「よく寝てたね、頭痛は?」 「凛か・・・。うん、治ったみたい」 「安心した。先生から伝言。今日来なくっていいって。まだ1回目だから今回は見逃すけど次はないって。よかったね」 愛らしい笑顔を向けて鞄を渡してくれる。蓮と朝風じゃないことにほっとしつつ2人のことを尋ねた。 「2人でバスケしてるよ」 2人で?と疑問を持ちながらふと布団の上にかけられた見覚えのあるブレザーを見る。そういえば朝風の部屋に置いていった自分のものだとわかった。 「れーちゃんじゃない?」 「そ、そっか」 朝のことを思い出され、少し酷いことを言いすぎたなと思いながらも戻してくれたことに心の中でお礼をした。 「健気だね」 は?となんの事だと聞き返すと再びにこやかな笑顔を向けてれーちゃんの事だよと言う。 どこがと思いながら聞き返すことも無く凛は続けた。 「何があったか聞かないけど、れーちゃんは顔は良くても性格残念なんだけど気に入った子には優しいよ。蓮はゆーちゃんとれーちゃんを面白がって悪ーいことばかりするけど2人のこと思ってのことだと思う」 今日のこともそうだと思うとゾッとするけど別に朝風のことを好きだと思ってないから余計なお世話だ。 「ゆーちゃんはどうしたい?」 「なにその質問」 聞かれたって直ぐに答えは出ないし気持ち整理も何も好きとかわからない。恋愛なんてしたことも無いしまさか告白された相手が男だ。恋愛対象になるわけが無い。 だけど、昨日の朝風にされたことを思い出すと心臓も身体も熱くなる程胸が痛く音を立てる。脳裏にギラギラした目、大きくごつごつした手、男らしい筋肉のついた肌、余裕のない顔、それが蘇る。 「顔赤いよ〜!可愛い」 抱きつかれて頭をぐしゃぐしゃに撫でられるといつもなら抵抗するのにそんな気力もない。 「好きとかわかんないしあいつがどうしたいかなんて知らないけど、勝手なことばかりしておいて謝るとか意味わかんねぇよ。求めたら拒否るしなんだよ・・・」 凛に撫でられるとほっとしてなんでも話したくなるのは心を許してるからなのだろう。 優はひたすら心の内も凛に伝えて心が軽くなっていた。 「もう1回抱っこしようか?」 「2度も羞恥を晒せるか」 保健室を出て下駄箱に向かう途中思い出したように言う凛に突っ込みを入れて履き替えると、電子音が鳴り響く。 自分の物かとポケットと鞄を漁り、取り出すと充電が切れており昨日から充電していないことに気づいた。 「わたしのだ。もしも〜し」 軽い感じで電話に出て返事していき、大きい声を上げてから慌てた声を出して電話を切った。 「ごめん。ゆーちゃん、今日カテキョ来るの忘れてた!1人で大丈夫?」 「そんなに心配されなくても大丈夫だって。それよりもお前は早く帰れって。気をつけろよ」 ありがとうと手を振って凛と別れると寮の道を歩いた。近くのはずなのに遠く感じて体調がまた優れないからだと言い聞かせながら足を進める。 寮の玄関について待合室についた所で知っている人が座っていた。後ろ姿で1番会いたくないやつだと分かり、心臓が騒ぎ出した。 初めて寮生活が嫌だと思った一瞬だった。 てっきりまだバスケでもしてるのかと思っていたのにここをどう通るか考えて立ち止まっていると知らぬ間に目の前に人がたっていた。 「こやぎちゃん、体調大丈夫?」 その問いかけに心臓が止まりかけたように感じて声が出ない。どう返していいか悩んでいても朝風との時間は止まらない。 「・・・お前には関係ないだろ」 「心配もしちゃだめ?」 落ち込んでいるような声色に後ろめたさが込み上げてくるがそんなことで許してはいけないと言い聞かせる。手をにぎり閉めてぐっと堪えた。 「話がしたいんだ」 「俺はない」 通り過ぎようと朝風を避けたのに腕を掴まれる。振り払おうと抵抗しても強い力で掴まれていて逃げること出来なかった。 「離せよ」 「許可してくれるまで離さない」 なんでこういう時は頑固な癖にあの時は謝ったのか分からない。 答えることもせず数秒その場でいると数人寮に入ってきた生徒の声が聴こえて見られるとまずいと察して朝風に言うことを聞くことにした。 「わ、わかった、話すから。手!」 「ありがとう」 そう答えるとふと見えた安心したように笑う朝風も見てまた騒ぎ出した。 他の生徒に見られることも無く部屋に向かい、今日2度も朝風の部屋に入ることになった。本当は入りたくないのが本音だが話をしないと優の部屋にまで乗り込んで来そうな勢いだった為仕方なく入ることになった。 「ソファに座ってて」 促されて素直にソファに座るのは何だか嫌になり、床に腰を下ろした。 朝風はそんな優を見てから同じように近くに座ると少しの沈黙が流れた。 「昨日のことだけど・・・」 「あれは事故だ、から忘れよう。俺と朝風の関係もそのまま。何もなかった。それだけだ!話は終わり!」 朝風を遮って結論をぶつけたが、緊張して顔なんて見ることも出来ない。もうその話はしたくもない。しないで欲しい。そう願っていた。 (こいつに対して感情もないし何も無かったんだ) 自分で言ってどこか喪失感もあり、なんて自分勝手なのだと思った。手を出してきて悪いのは朝風なのだ。

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