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第18話
体育祭が終わると直ぐに期末テストがあり、体育祭で意気揚々と舞い上がった心はテストのおかげか気分が張り詰めていた。
確かにスポーツに力を入れてる学校とはいえ、勉強出来なければ部活は出来ない。どこも文武両道と言うやつだ。
因みに俺はいつも復習しているので、テスト直前で焦ることもないが、テスト期間の為に部活は出来なくて憂鬱になっていた。
あれから陸上部に入り、走ることに熱中している。部活の休みの時は他の部活に混じったりといつもと変わらない日々を過ごしていた。
今日は姫路兄妹と朝風と教室で他愛のない会話をしながら勉強していた。蓮と凛、朝風は頭が良いので教えることはないし簡単に課題を解いていく。俺は英語以外は得意なので手元の数学も解けるが、後に英語がにたどり着くとすらすら動いていた手が急に止まる。
(くっ、単語ならまだしも文章問題苦手なんだよなあ)
「なあ、蓮ここ・・・」
「ここはね、現在完了形はhaveは助動詞だから・・・」
(あ、まただ。最近、こいつ変なんだよな…)
「こうなるから・・・こやぎちゃん?」
「わかった・・・どうも」
またにだけど蓮や他の友達と話しているとこうして間に入っては邪魔をしてくる。
理由は知らないけど、朝風との関係は体育祭以降も全く変わらず一定の距離を保ち続けているし、朝風からも何もしてこないから安心はしていたけど、行動がよく分からない。
「ん〜終わった〜!めんどくさ〜い!テスト強化週間って2週間もあんのかな〜」
「凛それ何度目だよ、うるさい」
「蓮は殆ど勉強しないで、スマホ弄ってたじゃん」
「テキトーにやればいいんだよ」
確かに蓮は目の前の課題は手も付けずにサボっていたがテスト順位は高い。
適当男も顔も良ければ頭がいいとか恨みどころしかない。
「はいはい。私、彼氏と帰るからまたね〜。」
凛が教室から出ていくのを見送ったが、彼氏いたことに吃驚して蓮に尋ねた。
「凛にいつ!彼氏!できたの!?」
「あ〜確か先々月からだったはず。むさくてちっこいメガネ野郎」
「僕も見たことあるよ」
「俺、知らなかった・・・」
蓮に部活ばっかりで周りに興味なかっただろうなと言われ、考えるとそうだなと思った。
部活に力を入れすぎて前みたいに凛達といる時間も減っていた。
「俺周り見えなくなりすぎじゃん。後で凛におめでとう言っとく」
「そーしておけ。俺も帰るわ〜朝風に英語見てもらえよ」
ひらひら手を振って鞄を肩に乗っけて去っていく。周りを見るとまだまばらだが生徒達は残っていた。
「僕達も早く片付けようか」
「あーうん」
急に緊張が走り始めたが、朝風の課題を見ると既に終わっていた。帰る気がなく、俺を待っている気もする。
「お前も終わったなら帰っていいぞ」
それに直ぐ返事は帰ってこなかったが、帰っても暇だからと言う。帰る気がないやつに無理やり帰れとは言えないので、気にすることをやめて課題を開始する。
でも直ぐに難問がやってきてまた手が止まる。数分考えても解けることない問題を眺める。
(あ〜もう!聞くしかないのか!考えろ!いやでも・・・!)
「・・・あ、のさ。ここ、よく分からなくて暇なら教えて欲しいんだけど」
「仰せのままに」
その言葉に胸がなる。忠順な騎士のように言われるまでは手は出さないと言うあの決まが蘇る。
ゴツゴツした細くて長い綺麗な指が視界に入り、しなやかに紙の上で動いていく。字よりも指を目で追って自分に触れた手の感覚が全身に巡る。声もあの時の艶かしい声とは違えど朝風の声は低くて耳に通り、金縛りにあったような感覚に負けじと身体に力を入れる。
「こやぎちゃん」
「・・・え?」
声に反応するように朝風を見上げる。今、自分はどんな顔をしてるのか分かるはずもないが身体が熱い。
「もう帰ろうか」
にこりと笑顔を向けてから鞄に詰めていく。
それに対して俺の熱も冷めていく。なんだよ、その嘘くさい笑顔は。邪魔ばかりしてきたくせにこういう時はなんもないのかよ。
よく分からない感情がかき回る。
(なんで・・・俺、ショック受けてんだろ
「こやぎちゃん帰ろう」
「・・・あ〜、先生に用事あるからもう少しいるわ。またな」
「うん、また」
力が抜けて椅子に浅く座り、天井を見上げる。深く溜息してから目をつぶる。
一瞬思った言葉は嘘と信じたいのに現実だ。なかったことにしていたことが何故あの時に思い出したのかさえも不思議で感情がめちゃくちゃだ。
「触れて欲しい・・・」
ぎゅっと手を握りしめて言葉を噛み締め、落ち着くまで暫く1人の時間が過ぎていった。
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