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第21話

期末終わって2週間ぶりにゆっくりできる週末なのだが、優のやることは週末だろうと変わらず決まっている。5時半に早起きして軽くストレッチしたら外に走りに行くのが日課となっている。2週間は自粛してた為か久しぶりに心が陽気していた。ランニングシューズの紐をきっちり絞めたらよし、やるぞと気合いが入る。 運動する時が1番楽しいしこの時が全ての事を忘れられて気持ちが良い。昔から何かあった時は無駄に考えるより走って1度リセットするのが効率が良い。だからこの重く感じた2週間分のモヤモヤを打ち消すように没頭した。 「あ、やばい。小銭入れ忘れた」 いつも自動販売機のある公園で水分補給がてら1度休憩をしている優は小銭入れを持ち歩いてるのに今日に限って忘れて来てしまい、自動販売機の前で手をかけて項垂れた。 「はあぁ・・・」 「すみません。大丈夫、ですか?」 諦めて少し遠い水飲み場に行こうかと思っていると、優しいトーンで可愛いらしい声の女性が声を掛けてきた。声のする右側を見ると自分と差程変わらない身長の女の子と犬を抱っこして立っていた。 「あ・・・いや、お金を忘れてしまって。すみません、邪魔ですよね、どうぞ!」 「違うんです!体調良くないのかなと思い声をかけただけなんです。なんだ、安心しました」 少し不安そうに見ていた瞳は安堵の笑みで打ち消され、ふわりと笑った顔にふドキリとした。急に緊張が走って、特に何かを話すにしても初対面なので話題がない。可愛らしい女の子とこれでさよならするのはもったいない気もするが公園に来たのは目的が違うから諦める。 「心配ありがとうございます。はは。恥ずかしいな〜・・・。あ、俺、あっちにある水飲み場に行くんで!じゃあ!」 「あ、待ってください!えと、これ貸します」 1度抱っこしていた犬を降ろして鞄から長財布を取り出して自身の掌に150円がのせた。 「え!?そんな悪いですよ!」 「いえ、受取って下さい。だってあっちの水飲み場今使えないんです」 それは知らなかった。知らぬまま行ったら次こそ脱水で倒れるところだったと思う。女の子の優しさに甘える事にして受け取ると触れた手が少し冷たくて、走って蒸気した自分の身体とか首に当てたら気持ちよさそうだと考えていると、「すみません!私の手冷たいですよね」と言う。 「全然!俺、走って暑いので首とかに当てたら丁度良さそうだなって考えてたところです」 「そ、そうですか・・・」 女の子はさっと顔を下に向け小さめに何か呟いているようだったがお金を受け取ってドリンクを購入しぐいっと3口飲む。 「は〜本当に助かりました。お名前聞いてもいいですか?俺、小谷木優って言います」 「優さん。花村愛子です。この子はすみれです」 「犬も愛子さんも可愛らしい名前ですね」 愛子は可愛いという単語に反応するように固まったが、それを気にすることも無く優は犬に目線を向けた。 犬の品種は優でも知っている柴犬だ。くるんとして尻尾と手入れされてる薄茶の毛並みがとてつもなく整って触り心地がいい。けど、足首は泥で汚れていた。 しゃがみこんで撫でようとするとすみれは様子を窺う(うかが)ようにゆっくりと匂いを嗅ぎながら近寄ってきた。すみれの許しを得てやっと頭に触れるとふりふりと尻尾を振り出した。 「可愛いですね!」 「っ!そう!すみれ!私のすみれは可愛いんですよー」 夢中に頭撫でるとすみれも嬉しくなったのか膝の腕に足を乗せ顔をぺろぺろと舐めだした。 「あっ!ごめんなさい!ズボン汚れましたよね。さっき土を掘って泥まみれでそのまま色んなところに行こうとするから抱っこしてたんです」 「気にしないで下さい。お前やんちゃなんだな〜」 愛子は慌てて鞄を漁り出して花の刺繍の付いた白いハンカチを差し出した。次も断ろうと考えたが拭くものは持っていなくて綺麗なハンカチを汚すのは気が引けたがまたもや好意に甘え受け取った。 「お金だけでは無くハンカチまでありがとうございます。これお金と一緒に洗って返すのでまた会えますか?」 「会え、ます!私ここで毎日犬の散歩しているので何時でも大丈夫です」 先程よりも声のトーンが上がったようにも感じる愛子の言葉に不審がられていないことにほっとする。 時間も時間なので最後に愛子へお礼とすみれにもまたねと挨拶をして公園を後にした。

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