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第5話

「無駄だ。お前は何もできやしない」  するとまるで、瑛士の思考を読んだかのような声が上から降ってくる。  常に先手を取られて悔しい思いと、やり返したい一心で……すぐ近くまで来ている相手に殴りかかろうと起き上がるけれど、首と腕とを後ろに引かれ、再びベッドに倒れ込むだけの結果となった。 「……ゔっ、くぅっ」 「だから言ったろう」  ため息混じりの声が聞こえるが、何が起こったか理解できない。無遠慮に髪へと触れてくる手を振り払おうとするけれど、それも途中で何かに遮られ空しくシーツの上へと落ちた。 「てめ……なにした」 「目を開ければ分かる。それとも、見るのが怖いのか? 」 「怖いわけ無いだろ!」   挑発的な言葉にカッとなり、瑛士が瞳を見開くと、見知った男の端正な顔が、口元だけに笑みをたたえ、こちらを真っ直ぐ見下ろしている。それだけで、鼓動が勝手に速くなるのが自分自身にも分かったが、それには気づかぬふりをして、瑛士はゆっくり視線を周りへ動かした。 「何の……つもりだ」  すぐに状況は理解したが、問わずにはいられない。  両手には、それぞれ枷がついていて、そこから伸びた鎖はベッドの左右の下へと消えていた。それから、見ることはできないけれど、もう一本の鎖の存在で首輪も付けられていると分かる。更に、脚を動かしてみようとしたら、カシャリと金属音がした。  総合して考えると、一糸纏わぬ姿のまま、ベッドの上へと大の字に磔けられてしまっている。 「お前の身柄は、俺の預かりになった」 「それは、どういう意味だ。組は? 佐伯は……」 「答える義務はない」 「アンタ、やっぱり猫被ってたんだ」  意識を失う前とはまるで別人のような話し方だが、こちらのほうがしっくりくると思った瑛士は口端を上げた。 「で、縛り付けてどうすんの? 俺がアキにしたみたいに、アンタが俺を犯すの? だったら……本気で抵抗するけど」   彼が警護をしていた相手へと危害を加えたのだから、捕まったあげく無罪放免なんてことは、あり得ないのは分かっている。自分がした事を思えば、こうなることも予測のに入っていたが、だからといって『はいそうですか』と言いなりになれる気性ではない。 「白鳥君の件については、お前の上である佐伯が全て責任を取った」 「だったら……」 「だが、お前はあれだけの事をした挙句、まだ白鳥君に危害を加えようとしていた。牙ぐらい折らせてもらわないと、危なくて外には出せない。そうは思わないか?」  そう尋ねた男は瑛士の胸へと指を這わせ、酷薄な笑みを浮かべながら、「鍛えてあるな」と呟いた。

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