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第6話

 自分よりも体格の良いこの男に言われると、嫌味にしか聞こえないから瑛士は鋭く男を睨む。 「誘ってるのか?」 「死ね」 「語彙が乏しいな。昔の方がかわいげがあった」  肌をなぞる指は止まらない。  それをいうならアンタだって昔の方が優しかったと喉元まで言葉が出たが、すんでのところでそれを飲み込み、瑛士は掌を握りしめた。  市ノ瀬瑛士(いちのせえいじ)は世間一般で言われるところの、チンピラと呼ばれる部類に入る人間だ。ヤクザとまではいかないが、それに寄生しある程度の収入を得て生活をしている。  ここ数年はその寄生主が佐伯と呼ばれるヤクザだったが、それも一ヶ月くらい前から、定期的に来ていた連絡がプツリと途絶え、音信不通になったままだ。 (おおかた、コイツのボスから手が回って、動けないってところだろうが……)  瑛士は大柄とまではいかないが、それなりの上背があり、筋肉もしっかりついている。人目を引く美しい容姿をしていることも自覚しているし、過去に何度か街でモデルのスカウトを受けた事もあった。  だが、そんな華やかで綺麗な世界では、自分のような人間は生きていけないことを知っている。なにせ、幼い頃から瑛士は自分の体ひとつで生きてきた。  それが、何を意味しているのかを……分からないような人間なんて、綺麗な建前に押し潰されてみんな死ねばいいと思う。 「お前、結構な数のアダルトビデオに出演してるな。裏でしか取引されないが、かなりの人気だと報告を受けてる」 「アンタ、暇なのか?」  本当なら、殴りかかってやりたいところだが、状況がそれを赦さないから、瑛士は嫌味を込めて毒吐き、馬鹿にするように口端を上げた。 「そうかもな」  それを容易く受け流す男は、瑛士よりも一回り以上体格がいい。以前会った時にはキッチリと黒い髪を整えていたが、今は前髪を下しているから、実際の年齢よりもかなり若い印象に見えた。そして、瑛士自身、相当な場数を踏んでいるから分かる事だが、仮にサシで勝負を挑んでも、きっと敵わないだろう。 「俺は仕事をしただけだ。佐伯が責任取ったんなら、こんな扱い受けるれはねえだろ。牙を折るって言ったけど、アンタには無理だ。お坊ちゃまのボディーガードなんかしてるお綺麗なお医者様に、そんなことができるわけ無い」  余裕ありげな男の態度が勘に障って仕方がなかった。だから、煽るような言い方をしたが、男は表情一つ変えず、腹へと指先を下していく。

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