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第7話
間違えた事は言っていない。男相手のハードな調教物だと聞いて現場に行ったら、そこにいたのが目の前の男が警護をしている雇い主のオンナだったというだけだ。
〝オンナ〟と言っても貧相で地味な男の大学生だったのだが、見覚えがあったから、いつも以上に手荒に扱った。
「へえ、俺が医師になったこと、知ってたんだ」
「っ!」
臍の中へと指を挿しこまれ、瑛士は体を捩ろうとするが、逃れようにも可動範囲が少なすぎるから不可能だった。しかも、自分の失言に気づかされ、心臓が大きく脈を打つ。
「ネコは絶対やらないって噂は本当か?」
「アンタには……関係ない」
どうにか言葉を紡ぎ出し、必死に虚勢を張るけれど、そんな反応を楽しむように男は臍を掻き回し、あろうことか、下生えへと空いている手を伸ばしてきた。
「八年前に会ったときは、もっと素直だったのに」
「うるせえっ、それ以上喋ったら、ぶっ殺すぞ!」
ため息混じりに言われた言葉に、頭へと血がカッと上る。無茶苦茶に暴れ抵抗しても、金属音が響くだけだが、罵声を浴びせて唾を吐き出すと、男の表情が僅かに曇った。
たったそれだけのことで溜飲を僅かに下した瑛士だったが、次の瞬間股間を襲った激しい痛みに、体を大きく仰け反らせ、情けなくも悲鳴を上げることとなる。
***
「馬鹿だな」
すぐ頭に血が上るのは、幼い頃から変わらない。そんなところに安堵しながら、握り込んだ瑛士のペニスを今度は優しく扱きだすと、こちらを睨む双眸に怒気が宿っていくのが見て取れた。
(まさか、あんな場所で再会するとは)
男、工藤清高 は財閥系の御園グループに執事として雇われている。主な仕事は会長の孫、御園唯人 の使用人であり、医師免許や武道の心得もあることを買われ、ボディーガードや主治医も兼ねた役割を果たしていた。
そんな清高を信頼し、唯人が彼の大切な相手、白鳥暁 を護衛するよう命じてきたのは数ヶ月前の事だったが、つい最近、目の届かない場所にいる隙に、守るべきその存在がヤクザによって拉致された。
御園唯人のイロを捕らえ、アダルトビデオを制作すれば、差し止めるために御園が金を出すだろうという算段で、仮に取引が決裂しても、ビデオを売れば損はしないという狡猾な計画だった。
佐伯というヤクザが全てを取り仕切っていたらしいが、途中で清高が助けに入り、撮影自体は中断した。
その時、暁を陵辱していた男が、目の前にいる市ノ瀬瑛士だ。
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